台湾における知的財産権訴訟の手続きを規定する知的財産事件審理法(中国語名:智慧財産案件審理法)の改正案は、2023年2月15日に立法院(国会)に可決され、同年8月30日に施行される予定である。今回の改正のポイントのひとつは、侵害訴訟における立証のあり方である。改正後の知的財産事件審理法第35条によると、専利権、コンピュータープログラムの著作権、営業秘密の侵害事件において、原告が証拠を提出し損害の存在を釈明した場合、被告がただ単に侵害の存在を否定してはならず、原告が主張した権利侵害事実の存否について具体的に応答しなければならない。さもなければ、裁判所は、原告が主張した権利侵害事実が真実であると認定することができる。
もとより、現行の台湾民事訴訟法においては、当事者の書類・物件提出義務、陳述義務・事案解明義務等、原告の立証責任を緩和する規定があるが、改正後の知的財産事件審理法第35条の適用を通して、より効率的な訴訟進行が期待される。
IC(集積回路)に係る専利侵害事件を例として挙げると、原告が起訴前に、膨大な時間やコストを費やして被告のICに対するリバースエンジニアリング(逆行分析)を行って被告が専利侵害したことを確認し、リバースエンジニアリングの結果を専利権侵害の証拠として用意する必要がよくある。改正後の知的財産事件審理法第35条が適用されれば、起訴後、被告が具体的な理由なしにただ単に原告によるリバースエンジニアリングの真実性を否認しても、再び他の中立的な専門機関にリバースエンジニアリングを行ってもらう必要がなくなるため、訴訟進行を促進することができる。
実際、改正後の知的財産事件審理法が施行される前に、知的財産及び商事裁判所が原告の主張に対し具体的に応答するように被告に命じたほか、原告によるICのリバースエンジニアリングの結果を判決の根拠とした専利権侵害事件(111年民専訴字第16号)が既に存在している。
この事件の当事者らは台湾のドライバーIC設計の会社であった。原告は起訴前に、被告のドライバーICが搭載されたスマートフォンを購入し、その購入の過程やスマートフォンの内部の様子について公証人に事実実験公正証書を作成してもらったあと、台湾からスマートフォンを日本の専門業者に送りリバースエンジニアリングを行ってもらった。そして、原告が後に専利権侵害訴訟においてリバースエンジニアリングの結果を専利権侵害の証拠としていたのに対し、被告は、リバースエンジニアリングの結果に証拠能力がない上に、原告がリバースエンジニアリングの対象が被告の製品であることを証明していないと主張した。最終的に裁判所は被告のドライバーICが原告の専利を侵害しないと判断したが、別途中立的な鑑定機関にリバースエンジニアリングを行ってもらうように命じることはなく、原告が既に証拠として提出したリバースエンジニアリングの結果に基づいて侵害の存否について判断した。
この事件の判決では、日本の業者が作成した報告書における『リバースエンジニアリングの対象となるスマートフォンのシリアルナンバー等の情報』と、台湾で作成された『事実実験公正証書に記載されているスマートフォンの情報』が一致していたことにより、リバースエンジニアリングの対象となったスマートフォンと台湾の公証人の事実実験の対象となったスマートフォンが同一であるとされた。
裁判所は、被告が同じくドライバーIC設計の会社として、原告が収集した証拠の真実性、及び日本の業者によるリバースエンジニアリングの正確性に対し疑義を唱えるだけでは不十分であり、より信憑性のあるリバースエンジニアリングの結果、又はドライバーICの設計資料を提出する上で原告の提出したリバースエンジニアリングの結果に反論しなければならないとした。故に、裁判所は、被告が自分に有利な事実について立証をしていないとし、原告が提出したリバースエンジニアリングの結果に基づいて専利権侵害の成否に係る判断をした。
総じて言えば、ドライバーICに係る専利侵害事件において、被告が原告に提出されたリバースエンジニアリングの結果に具体的に応答しなければならないとした111年民専訴字第16号判決の見解は、改正後の知的財産案件審理法第35条の趣旨と同じである。現在、改正後の知的財産案件審理法は施行寸前であり、同法の第35条の適用を通して、専利権者の立証責任が緩和され、理由の備わらない被告の答弁で真実発見を阻害することを避けることで、台湾における専利権行使がより容易になることが期待される。とりわけICのリバースエンジニアリング、又は精密機器による検査に係る専利侵害訴訟では、原告が予めリバースエンジニアリング、又は精密機器による検査の結果を提出済みであれば、被告は理由を付せずに権利侵害の証拠をただ単に否定してはならず、より積極的に応答しなければならない。