従来の台湾の実務では、「先行技術の抗弁」が均等侵害の成立を阻却する事由とされてきた。台湾の経済部知的財産局が公表した「専利侵害判断要点」(中国語名:専利侵権判断要点)によると、専利の権利範囲に入る被疑侵害対象の技術的特徴が、ある先行技術と同一である場合、又は、ある先行技術と専利出願時のその発明の属する技術の分野における通常の知識との簡単な組合せである場合、「先行技術の抗弁」が適用され、均等侵害は成立しない。そして、多くの従来の知的財産及び商事裁判所の判決においても、上記の「専利侵害判断要点」の内容が、「先行技術の抗弁」の適用の判断基準とされている。一方、最近(2023年2月)、被疑侵害対象と比較して先行技術に他の技術的特徴がある場合、被疑侵害対象と先行技術が同一であるかをどのように判断すべきかという論題に関する事件の判決(知的財産及び商事裁判所111年度民専訴字第58号)が下された。
この事件における原告の専利(台湾実用新案登録第M581023号)は、ピストン台座及びクランプロッドを備える、加工機具に用いられるクランプ機構を請求の対象とするものである。そして、そのピストン台座は、その底面に上方に延伸する凸ブロックがあり、その凸ブロックでクランプロッドを動かす。原告は、被疑侵害品が原告専利のクレームのほとんどの構成要件の文言に入る上に、クランプロッドを動かすピストン台座は、底面の厚さが均一で凸ブロックがないものの、原告専利の均等範囲に入ると主張した。対するに、被告は原告の主張を否認しないが、関連の先行技術を証拠として提出し、被疑侵害品と先行技術が同一であるため均等侵害の成立が阻却されると主張した。この先行技術の抗弁に対し、原告は、その先行技術のピストン台座にさらにОリングがあり、ピストン台座が先にОリングを圧迫することでクランプロッドを動かすので、先行技術に他の構成要件があり、被疑侵害品と同一でないと反論した。
この先行技術の抗弁に関する争点を審理するに当たり、知的財産及び商事裁判所は原告専利の請求項をもとに権利範囲に入る被疑侵害品の技術的特徴を定めた。被疑侵害品が原告専利のほとんどの構成要件の文言に入ることについては双方当事者とも争わないので、原告専利の権利範囲に入る被疑侵害品の技術的特徴に対する裁判所の描写は、原告専利の請求項の文言とほぼ同一である。なお、均等範囲に入ると主張されたピストン台座について、裁判所は、「厚さが均一でクランプロッドを押し上げる底部を備える」ものであると描写した。そして、知的財産及び商事裁判所は、前述の被疑侵害品に対する描写と先行技術に開示された全体的な内容を比較したところ、先行技術に開示されたクランプ機構の構成要件が、原告専利の構成要件の文言に入る被疑侵害品の技術的特徴に相当すると判断した。なお、均等範囲に入ると主張された被疑侵害品のピストン台座について、裁判所は、先行技術のクランプ機構のピストン台座も底部の厚さが均一である上に、そのクランプ機構も厚さが均一である底部でクランプロッドを動かすとした。そのため、裁判所は、被疑侵害品の権利範囲に入る技術的特徴がその先行技術と同一であるとして、先行技術の抗弁が成立して均等侵害にならないと判断した。
これに関し、原告は、「先行技術のピストン台座にОリングがあるため被疑侵害品と異なる」と争ったが、裁判所は、このОリングが、ピストン台座でクランプロッドを動かすことに影響を及ぼさない上に、原告専利の権利範囲に入る被疑侵害品の技術的特徴がОリングと関係なく、原告専利にもОリングがないとして、先行技術の抗弁について判断する際、Оリング及びОリングと他の構成要件との連結関係を考える必要がないと判断した。
本件では、先行技術の抗弁に対する知的財産裁判所の判断は、従来の判決と類似するが、従来の事件の多くは、先行技術と専利の権利範囲に入る被疑侵害対象の技術的特徴と相違があることに関連したため、裁判所の判断は、その相違が先行技術と専利出願時にその発明の属する技術の分野における通常の知識との簡単な組合せであるかということに重きが置かれた。一方、本件では、他の技術的特徴を備える先行技術が被疑侵害品と同一と言えるかどうかに重きが置かれた。本件の判決理由は、先行技術における他の技術的特徴が被疑侵害対象に対応する先行技術の構造又は機能に影響を与えるか、他の技術的特徴が原告専利の構成要件に該当するか、又は原告専利の権利範囲に入る被疑侵害品の技術的特徴に相当するかどうかに関わっている。今後、このような均等侵害に係る先行技術の抗弁に関する事件があれば、本件で裁判所が示した基準が、先行技術の抗弁における参考になると思われる。
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