台湾では、知的財産権に起因した民事訴訟事件の第一審と第二審に対し、知的財産及び商事裁判所が管轄権を有する。この管轄権は専属管轄の意味ではないが、知的財産権に係る民事訴訟を可能な限り専門性を持つ知的財産及び商事裁判所に集中させるために、いわゆる「優先管轄」の原則が適用される。即ち、①地方裁判所が管轄権を持つことに双方当事者が合意した場合(合意管轄)、又は②原告が地方裁判所に対し訴訟を提起したことに被告が反対せずに訴訟行為を行った場合(台湾では「擬制合意管轄」と称される)を除き、地方裁判所はこうした事件を知的財産及び商事裁判所に移送しなければならない。
台湾の司法実務では、上記の「優先管轄」の原則が第一審の知的財産権に係る民事訴訟において問題なく適用されてきたが、控訴しようとする場合、とりわけ合意管轄や擬制合意管轄があるために地方裁判所が第一審の審理をした場合、どの裁判所に控訴すべきであるかに関し、以前から実務界に見解の齟齬が存在していた。即ち、第一審の審理をした地方裁判所の上級裁判所に当たる高等裁判所に控訴すべきであるとする見解がある一方で、知的財産及び商事裁判所に控訴すべきであるとする見解も見られる。最近の例を挙げると、高等裁判所が2022年1月から2月まで裁判管轄につき下した決定のうち、111年度上字第185号決定(営業秘密に関する損害賠償事件)、109年度重上字第699号決定(技術移転契約の履行により生じた紛争に関する事件)、110年度抗更三字第56号決定(退職した者が無断で元の会社から設計図や顧客情報を持ち出した事件)で、高等裁判所は、知的財産及び商事裁判所の管轄にすべきであるとの見解を示した。
上記の高等裁判所の決定は、台湾の最高裁判所が2019年に下した108年度台抗字第381号決定の判断に沿って下されたものであり、その主な法的根拠は、2014年に改正された知的財産案件審理法の第19条である。その改正後の第19条は、「知的財産事件の第一審の裁判に不服があり控訴し、又は抗告する場合、管轄する知的財産裁判所(知的財産及び商事裁判所の以前の名称)に対しこれをなすものとする」とあるのに対し、改正前の条文は、「知的財産事件の第一審の裁判につき、知的財産裁判所に控訴し、又は抗告することができる」と規定されていた。なお、これに関し、改正理由として下記の内容が明記されている。
現在、知的財産事件の第一審の裁判は知的財産裁判所の管轄に専属するものではないが、通常の裁判所の管轄に属する場合でも、各地方裁判所における知的財産を専門とする部門がそれを受理する。法的見解を一致させるために、控訴又は抗告は、専門性のある知的財産裁判所により受理されるべきである。しかし、現行条文の第2項は、通常の裁判所が下した知的財産事件の第一審の民事判決又は決定に対する控訴又は抗告の管轄裁判所が明確にされていないため、争いを防ぐために、第2項を改正する。
そして、最高裁判所の決定に基づけば、上記の条文に「専属」という文字はないものの、法的見解を一致させるために、知的財産事件の判決又は決定に対し提起された控訴又は抗告は、知的財産及び商事裁判所の管轄に専属するとされるべきである。したがって、合意管轄、又は擬制合意管轄が第二審に適用されず、通常の裁判所は知的財産権に係る民事訴訟の第二審に対し管轄権を有しないこととなる。
これにより、現在知的財産権に係る民事訴訟を一律に知的財産及び商事裁判所の管轄とするかどうかにつき、司法実務では第一審と第二審により異なる取扱いをする傾向が見られる。すなわち、通常の裁判所は例外的に第一審の審理を行うことができるが、第二審は知的財産及び商事裁判所の管轄に専属することになる。今後、関連する法制度がどのように変動するか、実務がどのように発展していくかについて、その動向を注視すべきである。
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