情報通信技術が普及するにつれ、インターネットを利用した無断複製や権利侵害が多発するようになってきた。続々と現れてくる海賊版配信サイトを知的財産権者が発見し自身の権利を行使しようとしても、往々にして防ぎきれず、困ってしまうことも多々ある。特に、海賊版配信サイトの国別コードトップレベルドメイン(ccTLD)が「.tw」でない場合、台湾で権利を行使しようとしてもなす術がない状況に陥ることがよく見られる。
このような権利行使上の障害を突き詰めると、権利行使の対象が台湾の司法管轄の範囲を超えるという問題に行き着く。海賊版配信サイトが台湾における視聴者に配信しても、そのトップレベルドメインが他国のccTLDである場合、「.tw」ドメインの管理機関「台湾ネットワーク情報センター」(TWNIC)がそのような海賊版配信サイトに対し管理権限を持たないため、たとえ台湾の裁判所が著作権侵害の犯罪行為が成立すると権利者に有利な判断を下しても、そのような犯罪行為を抑止できる有力な手段がなかった。
2020年4月、「楓林網」(8maple.ru)という当時台湾における最大規模の海賊版配信サイトが検察・警察当局により取り締まられた。その運営者(台湾現地の大学院の出身者)は法的責任を追及されたほか、サイトも差し押さえられたため、当時コンテンツ業界がこの取締りの成果に大いに奮い立たせられた(この事件の詳細については、弊所のこの記事をご参照ください)。そして、「楓林網」はccTLDが「.ru」(ロシア)の海外サイトであったが、優れた捜査能力を発揮した担当の検察と警察が運営者を逮捕したほか、サーバーの管理権限を入手することで「楓林網」の差押を遂げた。だが、この事件は、犯人を捕まえてサーバーの管理権限を取得することができなければ、サイトを差し押さえることが出来なかった可能性があった。ゆえに、楓林網が差し押さえられたことは、コンテンツ業界にとって歓迎に値することであったが、制度全体の状況からみれば、識者が期待したほど著作権の保護に大きな進展が見られなかった。
ところが、台北地方裁判所が最近の事件(以下、本件と称する)で差押命令を発行して「Gimy.TV」、「MOMOVOD」、「pttplay」など8つの著作権を侵害するサイト(以下、著作権侵害サイトと称する)を差し押さえた。そして、それらのサイトの差押では新たな方法が用いられていた。即ち、裁判所はTWNICに対し、DNS RPZ(DNS Response Policy Zones)という技術で台湾国内の主要なインターネットサービスプロバイダとともに、著作権侵害サイトのドメイン名をIPアドレスに変換すること(いわゆる「名前解決」)を停止することを命じ、これによって、台湾の視聴者による著作権侵害サイトへのアクセスが遮断されることとなった。
そして、本件の被告は裁判所の差押命令に抗告を提起したが、正当な理由がないとして上級審の知的財産及び商事裁判所に棄却された。
「楓林網」の差押と本件の著作権侵害サイトの差押との違いを例えると、前者は、当局が直接サーバーが所在する地点を封鎖し、誰もがサーバーにアクセスして海賊版のコンテンツを利用できることを不能にするものである。この場合、サイトの実際の運営者を捕まえてサイトの管理権を取得しなければならない。一方、後者は、裁判所がインターネット媒介者(internet intermediary)に、台湾の視聴者に著作権侵害サイトにアクセスさせないよう命じるものである。後者の場合、著作権侵害サイトの運営者の身柄を確保せずともある程度犯罪を抑止することが可能である。
本件の8つの著作権侵害サイトはいずれも海外で登録され、「.tw」のccTLDを持たないものである。本件以前、従来の実務上のしきたりでは、複雑な刑事司法共助手続を通じてはじめて著作権侵害サイトのドメイン名の廃止又は凍結が可能となったが、本件の差押命令は、TWNICが著作権侵害サイトのドメイン名をIPアドレスに変換することを停止するものであり、これによって台湾の視聴者が容易にサイトにアクセスできないようになり、著作権侵害サイトの廃止、凍結に近い結果を得られたので、著作権侵害の抑止に資した。
本件の差押命令は知的財産及び商事裁判所に維持されたが、当裁判所の決定書で台湾の司法管轄が著作権侵害サイトに及ぶかという問題も論じられた点は注意すべきである。知的財産及び商事裁判所の判断では、著作権侵害サイトが台湾国内の犯罪に関与し、著作権侵害サイトの管理権を有する被告が台湾の国民であるので、著作権侵害サイトの名義上の登録者が海外の会社であっても、著作権侵害サイトを差し押さえることができるとしている。言い換えれば、本件では、検察と警察は既に著作権侵害サイトの実際の運営者の身分を確認したわけである。だが、著作権侵害サイトの運営者の身元が確認されていない状態で本件に見られる新たな方法で著作権侵害サイトを差し押さえることができるかという疑問は残っているので、裁判所が今後の類似事件にどのような判断を示すかは観察を要する。