他人の技術の剽窃・盗用による専利(日本の特許、実用新案、意匠に相当)出願を如何に抑止するかは、世界の知的財産権界における共通の課題である。この点につき、中国国家知識産権局(日本の特許庁に相当。以下、中国知産局)は、近年、立法と行政執行の両面において、大きな進展を遂げており、専利出願における剽窃・盗用を抑制するための多様な手段を提供している。
その手段としては、既存の「専利無効宣告」(日本の無効審判に相当)、「専利権評価報告」(実用新案、意匠のみ。日本の技術評価に相当)に加え、「公衆意見」(日本の第三者情報提供に相当)と「通報」も、選択肢として考えられる。このほか、中国知産局内に設置された専利検索諮問センター(中国語:専利検索咨詢中心。以下検索センター)による「検索報告」もまた、専利の剽窃案件への対抗において、有効な証拠として用いられている。このため、本稿では、上記5つの手段の概要を説明する。なお、専利権の剽窃・盗用に対する訴訟または行政措置に係る手段については、その問題と費用がより複雑であることから、本稿では言及しないものとする。

一、専利無效宣告
中国専利法45条は、専利権付与を公告した日から、「いかなる単位(機関・組織)又は個人」も、皆、国務院専利行政部門に当該専利権の無効宣告を請求することができる、と規定している。この規定は、全ての種類(発明、実用新案、意匠)の専利権が付与された専利に適用される。また、上記規定に基づき、無効宣告請求を他人に委託する状況もよく見られている。無効宣告は、既に専利権が付与された専利に挑む、最も正式な手段である。
中国の専利審査指南(以下、審査指南)によると、専利無効宣告の手続では、原則として、口頭審理が行われる。口頭審理への出席は、審査官の心証形成において、有利なものとしてはたらくが、剽窃であることが顕著であり、証拠も明らかである場合は、費用節約の観点から、無効宣告請求人は、口頭審理に出席しないことを選択することも可能である。無効宣告請求の審査決定(即ち、審決の結論)については、公告が行われる。
二、専利権評価報告
中国知産局は、実用新案または外観設計に対しては、実体審査を行っておらず、「専利権者、利害関係者、または被疑侵害者」は、「授権公告がなされた実用新案または意匠」に対し、中国知産局へ、専利性に対する専利権評価報告の作成を請求することが可能である。審査指南によると、この「利害関係者」とは、例えば、専利実施独占許諾契約の被許諾人と専利権者に起訴権を付与された専利実施一般許諾契約の被許諾人などを指し、実務上、利害関係者はその身分を証明する関連証明書類を提出が必要とされている。
現在、審議中である専利法実施細則(以下、実施細則)の改正草案では、評価報告請求人の資格は、「いかなる単位(機関・組織)又は個人」に緩和されている。草案が可決・施行された場合は、他人に、評価報告の請求を委託する状況も現れることが考えられる。
実務では、未だ、審査官の参考とすべく、先行技術による証拠を提供するという方法は取られていない。また、現行の実施細則第57条には、いかなる単位(機関・組織)又は個人でも当該専利権評価報告を閲覧又は複製することができる、と規定されており、よって、作成された専利権評価報告は公開されるものとなる。なお、専利権評価報告書は行政処分ではないため、これに基づき行政救済を提起することはできない。
三、公衆意見
公衆意見の法的根拠としては、実施細則第48条に、「発明専利の出願」につき、公開日から専利権付与の公告日まで、いかなる者でも専利法の規定に沿わない専利出願について国務院特許行政部門に意見を提出し、かつ理由を説明することが出来る、と規定されており、これは、出願中の「発明専利出願」にのみ適用される。公衆意見の提出には、政府手数料は発生せず、匿名での提出が可能となっている。また、公衆意見の提出においては、発明専利出願案の専利性に異議を唱えるための証拠を添付することも可能である。
中国知産局の現在の実務においては、公衆意見は、審査官の参考として提供されるのみであり、原則、審査官が、その意見の提供者に、意見の採用可否についての通知をすることはなく、また、中国知産局も、公衆意見の内容を対外的に開示していない。しかしながら、中国知産局の審査意見通知を見れば、提供した意見の内容が参酌されたか否かについて推測することは可能となっている。
四、通報
中国知産局は、「非正常専利出願行為」を抑制すべく、増訂版『専利出願行為の規範化に関する若干の規定』(中国語:關於規範專利申請行為的若干規定、通称「第75号公告」)を2017年に公布し、続いて、2021年3月に『専利出願行為の規範化に関する要綱』(中国語:關於規範申請專利行為的辦法、通称「第411号公告」)を公布し、非正常専利出願行為の種類、中国知産局が受理または審査段階にて主体的に発見・または通報によって非正常専利出願行為を知った場合の措置などにつき、明確に定めている。
第411号公告によると、真の発明者は、剽窃・盗用の疑いのある専利出願につき、証拠を添付して記名の上で、中国知産局に通報し、対応を請求することが可能である。中国知産局は、通報を受けると、専門的な審査手続を始動し、非正常出願であることを確認した場合は、出願人にその旨を通知し、関連行為を直ちに停止するとともに指定された期限内に関連する専利出願の請求を自発的に取り下げるか、意見を陳述するよう求めることができる。
五、検索(調査)報告
専利検索センターは、中国知産局直属の事業単位であり、「いかなる個人または単位(組織・事業)」も検索を委託することができ、いかなる種類の専利出願に対する新規性・進歩性に係る先行技術検索を行い、また、専利権を付与された専利に対し、無効に係る証拠の検索を行うこともできる。検索センターが、先行技術の証拠を検出した場合は、検索報告書に、審査意見のような形式での分析内容が記載される。また、請求人は、検索センターの参考として証拠を提出することも可能となっている。検索報告書はそれほど長期間を要せずに作成され、その内容は非公開となっている。
関連する証拠を検索センターに提出し、検索センターに調査を依頼することは、剽窃・盗用の疑いのある専利出願または専利に、専利権が付与されることを防ぐ、或いは付与された専利権を取り消すための有効な補助手段となり得る。ただし、検索報告は、法的に公的機関または裁判所に対し法的拘束力を有するものではないことに留意する必要がある。
六、おわりに
上記第411号公告によると、審査官は、専利出願受理の段階または審査の段階において、非正常専利出願行為が存在することを発見した場合、これを処理しなければならないとされており、また、2021年6月に施行された専利法第20条にも、専利の出願と行使の規範となる「信義誠実の原則」が明確に規定されている。更には、実施細則の改正草案において、専利法の「信義誠実の原則」に沿わない状況には、捏造、偽造、剽窃、寄せ集めまたはその他の明らかに不当な行為が含まれる、と規定されている。これらの措置には、イノベーションの保護を目的としないあらゆる形態の非正常専利出願に対し、イニシアチブを取って断固として対処していくという、中国知産局の強い決意が現れているといえる。