台湾の現行法では、特許権者、又は無効審判の請求人が知的財産局(台湾特許庁)による無効審判の審決に不服である場合、経済部に訴願を提起することができる。そして、その訴願の請求が棄却された場合、救済手段として、「知的財産及び商事裁判所」に対し知的財産局を被告とする行政訴訟を提起することができる。このような事件において、知的財産及び商事裁判所は通常、原告の無効審判時の相手方が参加人として行政訴訟に参加するように命じ、参加人が参加すれば、個別に攻撃又は防御の方法を提出することができ、判決は参加人にも拘束力が及ぶ。統計上、審決を覆した行政訴訟の判決が多くないが、参加人が行政訴訟に参加しないことは、やはり行政訴訟の行方に一定の影響を与え、甚だしきに至っては審決を取り消す結果となる可能性もある。知的財産及び商事裁判所が2021年9月に下した110年度行専訴字第9号の行政訴訟の判決はまさにその好例である。
この行政訴訟の焦点となるI317967号台湾特許(以下、本件特許と称する)は自動的に位置調整するレチクルキャリアの発明であり、特許権者は米国のインテグリス社(ENTEGRIS, INC.)であり、無効審判の請求人は台湾の家登社である。この行政訴訟は、家登社が本件特許を侵害していたとして、インテグリス社が2015年に特許侵害訴訟を起こしたものであり、一審裁判所(知的財産及び商事裁判所)は2019年3日に家登社に敗訴判決を下し、9.7億台湾ドルを支払うよう命じた(104年度民専訴字第36号判決)。台湾においてこれは異例とも言える高額の損害賠償である。これに対し家登社は控訴し、民事訴訟の進行中に本件特許につき無効審判を提起したが、ほぼ失敗に終わった。最後に、家登社が2019年4月に六回目の無効審判を請求した際、家登社が新たな引例を提出して知的財産局を説得することに成功したため、知的財産局は2020年4月に特許無効審決を下した。本件特許が無効審判で無効にされた事態の流れとして、インテグリス社と家登社は2020年の年末に和解に合意した。
そして、双方は民事和解に達したが、本件特許に係る行政救済手続きは継続していた。つまり、インテグリス社は上記の特許無効審決につき訴願を請求したが棄却され、本件の行政訴訟を提起した。本件の行政訴訟において、知的財産及び商事裁判所はインテグリス社の主張に同意し、家登社が提出した新たな引例を簡単に変更すれば無効とされた請求項に到達できるという知的財産局の論理は不十分であり、かつ知的財産局が新たな引例と本件特許が解決しようとする課題を考慮していないとし、開廷時にしばしば知的財産局(被告)に説明を求めていた。だが、知的財産局は説明のほとんどは、審決理由の繰り返しのみであったので、知的財産及び商事裁判所は、知的財産局の審決に理由不備があるとし、特許無効審決を取り消した。また、当裁判所は、本件の判決書に最高行政裁判所109年度上字第722号判決を引用し、裁判所が職権により事実関係を調査することができ、当事者の主張に拘束されないが、「本来の審決の結果を変更しない」、「審決時に存在した理由に基づく」、「当事者の手続上の権利を妨害しない」という前提の下で知的財産局が理由と法的根拠を補強することができるが、知的財産局は補充していないとした。
このような裁判所が問いかけた特許技術に関する問題に対し、原告の無効審判時の相手方が参加人として回答するのは最も相応しい。畢竟、参加人は特許の効力の存否に利害関係がある実質上の当事者である。そして、知的財産局は行政訴訟の被告であるが、行政訴訟の実務上、通常知的財産局はせいぜい参加人の回答を引用して審決の理由を補強するのみである。一方、本件の行政訴訟で、裁判所は家登社に訴訟参加を命じたが、家登社はインテグリス社と和解に達成したためか、それとも他の理由があったのか、参加することはなかった。そのため、知的財産局も積極的に理由を補強しなかった結果、裁判所は取消審決に理由不備があるとして知的財産局と家登社に敗訴判決を下した。
この判決の結果は、台湾における特許無効審判に係る行政訴訟の重要なポイントを浮き彫りにした。すなわち、無効審判では、知的財産局が特許の有効性の有無を判断する側であるが、行政訴訟に入ると被告となる。そして、実質的な対立関係にある無効審判の請求人又は特許権者が訴訟で積極的に意見を述べなければ、知的財産局が当初の審決理由以上の答弁を行うことが期待できないであろう。この問題点について、知的財産局は2020年の年末に特許無効審判に関する行政訴訟を対審制に変革する専利法の改正案を提出し、この改正が可決後、特許権者と無効審判の請求人が直接原告と被告として訴訟で攻防することが期待される。現行の制度では、訴訟参加人としての請求人又は特許権者は、特段の事情のある場合はさておき、攻防の機会を失わないために、積極的に訴訟に参加して意見を述べるべきである。さもなければ、裁判所が本来の知的財産局による審決を取り消せば、参加人にもその判決の効力が及ぶことになってしまうのである。
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