発明専利(特許)審査のにおける審査官の各拒絶理由への対応として、発明専利査定を得るべく出願人が補正を行うことは、ごく一般的となっている。実際、審査過程における補正のほとんどは、審査官の先行技術を引用した新規性または進歩性要件を満たしていないと指摘への対応によるものである。
しかし、専利法では、発明専利審査の過程における補正は、出願当初の明細書に記載された範囲を超えてはならないものと規定されている。審査過程において引用された先行技術の大半は、出願人が明細書を作成した当時には、思いもよらなかった技術であり、事前に明細書の表現や図を、前例と差別化した表記とすることは困難である。このため、審査過程における補正の内容を、如何に原(出願時)発明の明細書に開示された発明の範囲に含まれたものとするかが、ポイントとなる。以下、知的財産及び商事裁判所(以下、裁判所と称す)の2021年度第1号行政判決から、裁判所の発明専利出願の審査過程における補正が原明細書の開示する内容を超えているか否かの判断方法にき、検討を行う。
台湾第106122799号出願案(以下、子出願と称す)は、台湾第105109832号出願案(以下、親出願と称す)の分割案である。分割案の請求項は、「当該波長変換物質と当該散乱反射物質を混合して形成した混合物」との技術的特徴を限定している。出願人は審査の過程で、審査官が援用した先行技術を克服するために、独立請求項において「当該波長変換物質と当該散乱反射物質を混合して混合物と形成する」を「当該波長変換物質と当該散乱反射物質を混合して『単層』混合物を形成する」に補正し、先行技術では、二者を同一層に配置する技術は開示されていないことを強調した。出願人の上述の補正に対し、知財局は、出願時の明細書には、単層混合物との開示がないことから、補正を認めず、拒絶すべきであるとの拒絶査定を下した。出願人はこれを不服とし、訴願を経て、裁判所に行政訴訟を提出した。裁判所は、知的財産局とは異なる判断方法を用い、異なる結論を導き出した。両者の異なる見解は以下のとおりである。
[知的財産局の判断]
知的財産局の判断の主な理由は、明細書において、波長変換物質と散乱反射物質から一つの「混合物」を形成することは開示されているものの、補正後の独立請求項に限定された「単層混合物」は、出願時の明細書、発明専利請求の範囲または図面に開示も記載もなく、また、「単層混合物」と「混合物」を比べると、「混合物」のほうが明らかに範囲が広く、出願時の明細書、発明専利請求の範囲、または図面から、本願が示す「混合物」が「単層混合物」であることを直接的且つ疑義なく知ることはできない、というものであった。さらに、補正の依拠とされた実施例、即ち図5A-5Dの第4の実施例は、以下のとおりである。これらの図面は、併せて考慮すべきであり、図5Aの波長変換構造には2つの構成要素の符号があり、符号190(即ち、混合物)と、同時にその他の符号120R1(120)が表示されているが、図5Bには、190の構成要素のみであり、その他には何も表記されていない。この図面の内容からは、混合物が単層混合物であるかを直接的且つ疑義なく知り得ない。従って、知財局は、当該独立請求項の補正は、出願時の明細書、発明専利請求の範囲または図面の開示する範囲を超えていると判断した。

[知的財産及び商事裁判所の判断]
裁判所は、補正が出願時の明細書、発明専利請求の範囲または図面の開示内容を超えているか否かの判断は、明細書に明確に記載された内容の他、当業者が出願時の明細書、発明専利請求の範囲または図面の記載事項から直接的且つ疑義なく知り得るものを含んでおり、出願時の明細書、発明専利請求の範囲または図面に記載された文字の意味・一字一句の解釈に制限されるものでなはないとした。即ち、明細書及び図面の開示する内容は、形式上既に記載された内容と、形式上は記載されていないが実質的には明確に示唆されているものをも含むものとした。
上述の原則を本件に適用すると、この発明専利出願案件には、計四つの実施例があり、明細書が記載する第一~第三の実施形態によれば、波長変換物質は、散乱反射板130の上に置かれており、波長変換物質と散乱反射物質を混合して混合物を形成するとの技術的特徴を有していない。しかし、第四の実施例は、波長変換物質と散乱反射物質を混合して形成する混合物190が、同時に散乱反射機能と波長変更機能を有する点で、その前の三つの実施例とは全く異なっている。また、第四の実施例に対応する図5Bと5Dに見られるように、混合物190は明らかに単層構造であり、第一から第三の実施例の図2B、2D、3B、3D、4B、4Dの多層構造とは異なっている(以下図面参照)。係争発明専利出願案の図5A及び図5Bが標記する要素符号は、直接的且つ疑義なく混合物(190)が単層混合物であることを知ることはできないが、対応した説明書の記載「波長変換物質と散乱反射物質を皇后して混合物190を形成することにより、混合物190は散乱反射機能及び波長転換機能をを同時に有し、多層塗布による層間の結合不良の懸念を回避することができる」と併せて、図面を見ることができる。

上述の実施例の内容から、補正が出願時の明細書、発明専利請求の範囲及び図面を超えるか否かの判断は、まず、補正事項が明細書において明確に記載されているか否かを判断し、もし、記載されていないと判断されれば、更に当該事項が、当業者であれば出願時の明細書、発明専利請求の範囲または図面に記載された事項から直接的かつ疑義なく知り得るか否かの判断を行っていることがわかる。また、補正事項が直接または疑義なく知り得るか否かの判断においては、明細書の図面の標記に不整合な状況があったとしても、異なる実施形態の技術内容を含んだ発明全体の技術を理解することで、出願時の明細書、図面から示唆される実質的な内容を整理し、それに基づき補正事項が出願時の開示範囲を超えていないかを判断していることがわかる。
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