台湾当局は、2021年5月中旬からコロナウィルスの急拡大に対応すべく、警戒レベルを「3」(「4」は最高)に引き上げ、室内5人以上の集会を禁じる防疫措置を発令した。ところが、裁判所が開廷する場合、裁判官、書記官、当事者、及び弁護士を含む出廷する者が通常上記の人数を超えるため、台湾の司法院は5月中旬に、時効性、緊急性又は必要性のある事件の場合を除き、全国の裁判所の開廷の一時停止を命じた。そこで、知的財産裁判所も司法院の定めに従い、開廷の一時停止を発表し、交代勤務体制で書状の受領、判決書の作成等の作業に取り組んでいる。
現在(2021年6月28日)、台湾では警戒レベル3が続いているが、知的財産裁判所は、国民の訴訟上の権益を守り、兼ねて各訴訟関係者の健康を保つために、映像設備及びオンライン会議ソフトウェアを利用しての遠隔審理の試行を開始した。そして、弊所の弁護士は、2021年6月3日の午前に知的財産裁判所が行った最初の遠隔審理に出席した。今回の開廷は、発明専利(特許)に対する無効審判から生じた行政訴訟の口頭弁論のためであり、弊所の弁護士は、行政訴訟の参加人(無効審判の請求人)の訴訟代理人として出席した。
遠隔審理を円滑に進行させるために、裁判所の書記官が開廷前に参加リンクとミーティングIDを原告(発明専利権者)、被告(知的財産局)、参加人を含む当事者らとその訴訟代理人に通知し、数回に渡って各関係者の設備とインターネット接続をテストした。開廷当時、開廷の映像を制御する権限は裁判官が持ち、そして、裁判官、書記官、技術審査官は実際の法廷にいたのに対し、各当事者又は弁護士は各自の仕事場所にいた。なお、裁判時のマナーを守るために、裁判官、弁護士等の各関係者は法服を着用していた。
もとより、開廷時に書記官が入力途中の調書の内容を各当事者に示し、各当事者がスライドを映しながらプレゼンテーションすることを容易にさせるために、知的財産裁判所の法廷にパソコンとプロジェクターが備えられている。今回の遠隔審理では、裁判所はオンライン会議ソフトウェアの画面共有機能で調書の内容を各当事者に示した上、プレゼンテーションをさせた。一方、審理の傍聴がどのように行われるかについて、司法院によれば、遠隔審理を行うかどうかを問わず、実際の法廷は公開されて国民が傍聴できるが、違法な録画・録音により当事者と各関係者の肖像権、プライバシーが侵害されるリスクを避けるために、審理の同時放送と遠隔傍聴は行われない。知的財産裁判所の場合、遠隔審理に参加する当事者や弁護士は、録画・録音をしないことを盛り込む誓約書を事前に提出することが要請される。
そして、遠隔審理の法的根拠として、現行の台湾民事訴訟法第211条の1、行政訴訟法第130条の1、商業事件審理法第18条、家事事件法第12条等の個別の法律があるほか、司法院はかつていくつかの映像技術を利用して作業又は遠隔審理を行うことに関する条例を制定した。また、今回の感染拡大に伴い、司法院は、裁判手続きを効率よく続行させるために遠隔審理の応用を拡大する必要があると考え、2021年6月1日に特別条例の草案を提出した。この草案は行政院(内閣)を通過し、2021年6月18日に立法院(国会)により可決された。この条例によれば、感染症の感染状況が厳しい時期と区域では、民事訴訟、刑事訴訟、行政訴訟につき、裁判所はその職権又は当事者もしくは弁護士の申立により、映像設備で遠隔審理を行うことができる他、訴訟上の書類はファックス又は電子メール等の設備で伝送することができる。
また、司法院によると、この条例は感染症の感染状況が厳しいという特殊な時期に、従来の審理方式と異なる方式で感染リスクを回避すると同時に、審理手続きを円滑に進行させることを目的とするので、感染状況が落ち着くようになれば、通常の手続きにより審理するよう戻すべきであるとしている。
そして、司法院は遠隔審理のためのマニュアルを公表し、サイバーリンク社の「Uミーティング」を遠隔審理用のソフトウェアとし、マイクロソフト社の「Teams」を予備のソフトウェアとしている(前記の知的財産裁判所が行ったはじめての遠隔審理は即ち「Uミーティング」で行ったものである)。また、当マニュアルによれば、裁判官と書記官は実際の法廷に出て遠隔審理を行わなければならないが、裁判所は、(1)当事者が各自の居場所で参加し、(2)裁判所のほかの法廷で参加し、又は(3)当事者がそれぞれ上記の二つの方式で参加するかを選択することができる。さらに、当マニュアルは、遠隔審理を行う際の操作方法、実名によるログイン、意見の陳述、書類と証拠の提出を裁判所と当事者に指導しているほか、遠隔審理の参加者が裁判所による訴訟指揮に対する服従義務をも規定している。
上記のはじめての遠隔審理の事件につき、知的財産裁判所は、6月17日に被告(知的財産局)と参加人側勝訴の判決を言い渡し、知的財産局による無効審判審決を維持した。この遠隔審理が円滑に行われた後、知的財産裁判所の書記官は引き続き、一部の民事訴訟と行政訴訟の事件について遠隔審理で進行しようと弊所に通知した。このことから、警戒レベル3の期間では、性質上、ふさわしいと判断される訴訟事件に対し遠隔審理を行っていくことがわかる。
司法院も現在、各級裁判所の遠隔審理のための設備の設置を加速化している。そして、各裁判所が発表したプレスリリースによると、現在、新北地方裁判所、花蓮地方裁判所、新竹地方裁判所、橋頭地方裁判所などの裁判所がすでに遠隔審理を行ったとのことである。今後、裁判所がどのように感染の状況に応じて遠隔審理の進行方式を調整するかは、その動向に注意が必要である。