台湾知的財産局(以下、知財局)は、2020年12月30日、新たに「専利法部分条文改正草案」を公表した。今回の改正草案は、現行の専利(特許、実用新案、意匠)制度における、審査と争議における問題と欠点に着目し、専利法における専利権者の保障を強化すべく、米国、日本、韓国等の国々の専利審査と救済制度を参考に、台湾の専利制度とプロセスを大幅に変革するものとなっている。
改正草案では、意匠登録(設計専利)のグレースピリオドが12か月に緩和されるほか、査定系の専利出願プロセス、または当事者系の争議プロセスの何れにおいても大きな変更が見られる。主な変更点は以下のとおりである。
- 意匠のグレースピリオドの緩和:現行の6月から12月に延長
- 複審及び争議審判部の創設、救済手続の簡素化:知財局内に、専利救済案件の審判手続きを主務とする、複審及び争議審判部(以下、審判部)を創設。審判部の創設に伴い、専利主務機関の最終審決を不服とする場合、専利出願案件、専利権の有効性に係る案件のいずれに関わらず、行政訴願を経ずに、直接訴訟の提起が可能となる
- 司法訴訟制度の変更:司法救済手続きにおいて、現行の行政訴訟による手続きから、民事訴訟による手続きへ変更
- 専利出願権の帰属に係る争議を民事訴訟のルートによる解決に限定
(真の専利出願人が、行政ルートまたは民事ルートを選択して解決する現行制度とは異なる)
一、意匠登録のグレースピリオドを12か月に緩和
意匠登録のグレースピリオドは、現行の専利法122条第3項の規定により6か月とされているが、今回の改正草案では、国際間の規範と足並みをそろえ、12か月まで緩和されることとなる。
二、複審及び争議審判部の創設と救済段階の統合
改正草案では、再審査制度が廃止され、複審及び争議審判部が創設されることとなる。複審及び争議審議案件の概要は、以下の表のとおり。

人員編成においては、複審及び争議案件の審理は、審判手続きの主務機関が指定する専利審判官または法律の専門家の3又は5名(うち、審判長1名)を審判官とする合議体により審理が行われる。審判部の創設に伴い、出願手続きにおける専利権出願案件の再審査制度を廃止し、専利権出願案件が、初審において拒絶査定通知を受け、その結果に不服である場合、審判請求を行うことができる(拒絶複審)。手続きの変更点及び分割出願の時期の変更等の詳細については、本期の「専利法改正草案―専利出願プロセスの変更について」を参照されたい。同様に、無効審判の審理と審決方式と手続きにおいても、現行の原則書面審理が、口頭審理を原則とする形になるなど、変更が見られている。無効審判手続きの変更に係る詳細は、本期の「専利改正草案―無効審判プロセスの変更について」を参照されたい。
三、司法救済訴訟制度の変更
現行の専利法によると、出願人は、再審査における拒絶査定通知の送達から30日以内に、経済部訴願委員会に訴願することができ、訴願が棄却された場合、行政訴訟の提起が可能である。同様に、無効審判請求人(又は専利権者)が、無効審判不成立(又は成立)の決定に不服がある場合、無効審判審決書の送達から30日以内に、経済部訴願委員会に訴願を提起することができ、訴願が棄却された場合は、行政訴訟の提起が可能となっている。
今回の改正草案では、現行の法規における救済に係るプロセスが複雑すぎること、また、専利権が私権に係るものであり、専利権の有効性の争議は当事者の権益に関わるものであるとの性質に鑑み、訴訟制度を、現行の行政訴訟から、民事訴訟へと変更し、専利権者又は審判請求人の両者を訴訟当事者とすることで、訴訟の効果・効率の向上を目指している。つまり、今後、司法救済では、専利出願案件における専利を拒絶すべきであるとの査定・処分、または争議性を有する無効審判における審決のいずれにかかわらず、専利に係る全ての訴訟において、行政訴訟手続きではなく、民事訴訟手続きが採用されることとなる。訴訟の当事者については、出願人を原告、知財局を被告とする、出願案件では現在と大差ないが、無効審判に係る訴訟では、これまでの、審判請求人又は専利権者のうち不服がある者を原告、知財局を被告とする形とは大きく変わり、審判請求人及び専利権者がそれぞれ原告又は被告となり、知財局は訴訟当事者でなくなる。
四、専利出願権の帰属に係る争議を民事訴訟のルートによる解決に限定
現行の専利法では、専利出願権の帰属に関する争議が生じた場合、利害関係者は、その発明の専利権者がその発明を受ける権利を有する者ではないことを理由に、無効審判を請求することが可能である。また、無効審判請求人が、専利公告後2年以内に無効審判を請求し、取消が確定してから2か月以内に同じ専利を出願する場合、取消が確定した発明の専利権の出願日をその専利の出願日とすることが可能である。また、専利出願権の帰属に関する争議においては、関係者が調停、仲裁または確認訴訟の提起等を通じ、権利の帰属を確認した後、専利法第10条に基づき、権利者の名義変更を申請することが可能となっている。即ち、専利出願権の帰属に関する争議は、現行制度において、専利権の真の権利者が、行政手段による公的機関への無効審判請求、または、民事訴訟の提起の、どちらかを選択して争議を解決することが可能である。
しかし、専利出願権の帰属をめぐる争議は、その多くが私権や契約上の問題等に関するものであり、真の権利者を調査するにあたっては、行政機関よりも、司法機関のほうが、これらの判断に長けていることから、この度の改正草案では、専利法の専利出願権の帰属に関する争議に係る無効審判請求事由を削除し、専利出願権・専利権の帰属に係る争議を民事訴訟にて解決するものとし、裁判所の判決または権利の帰属を証明するに足りる証明書類により、名義変更を申請できるものとしている。
今回の改正草案により、審判部の創設にて救済手続きの簡素化との全体の目的を達成し、また合議制の審査方法により、審査の質が向上することができるならば、出願人(もしくは専利権者)にとっても、喜ばしいことであると言える。しかし、今回の改正による変動は非常に大きく、改正草案が順調に実施されることとなった場合、救済手続きでは長い間行政訴訟が用いられてきたことから、将来的に、民事訴訟が採用された場合、一連の詳細を如何に適用していくかは、裁判所と訴訟代理人が検討し、また直面しなければならない課題でもある。