2020年の12月末、台湾知的財産局(以下、知財局)は、専利法改正草案を公表し、各方面から意見を収集している。その改正の目的と概要は、本季の「専利法改正草案の概要」にて述べたとおりである。本文では、「専利出願案件の審査」とその救済に関する内容につき、縦断的に紹介する。
一、発明専利(特許)出願の審査
発明専利出願案件の審査に関し、改正草案と現行制度の主な違いは、以下の図のとおりである。

図に明らかなように、改正案にて変更された主な点は以下のとおりとなる。
(一) 拒絶に対する再審査と訴願にかえて「複審制度」を導入
現行制度における、発明専利の実体審査の行政手続きでは、知的財産局による「初審-再審査」の二段階と、再審査結果に不服であった場合の訴願機関への訴願段階との、計三段階となっている。
改正草案の行政手続きでは、再審査手続きを廃止して訴願を免除し、「審査-複審審判」の二段階に簡素化されており、「複審及び争議審判部(以下、審判部)」が、新たに知的財産局に創設され、複審審判が行われることとなっている。出願人は、知財局の審査官からの拒絶査定を受けた場合、拒絶査定書の送達日から2か月以内に審判部に審判請求を行うことができる(以下、拒絶複審と略す)。
また、改正草案では、出願日の認定または優先権主張の不認可のような知財局の認定に不服である場合も、審判部に複審を請求することができ、更にその結果に不服である場合は、訴願を経ることなく、知的財産及び商業裁判所に起訴することが可能となっている。
(二) 審判部の組織と審理プロセス
改正草案によると、審判部は知財局に属するが、経験豊富な審査官または法律の専門家により構成され、独立して審理を行う部門となっている。
- 前置審査と合議審理
改正草案では、拒絶複審請求人は、審判請求と同時に補正を提出することが可能となっている。補正の提出があった場合、審判部は、主に原査定の審査部門単独にて「前置審査」を行い、その結果、拒絶の理由を発見しないと認定された場合、原査定を取り消し、専利査定を行う。
審判請求時に補正の提出がない、或いは補正後なおも専利要件を満たしていない場合は、合議体(審判官3名又は5名、うち審判長1名)による審理が行われ、審決が下される。
- 拒絶複審は原則書面審理
改正草案では、拒絶複審は原則書面審理とされているが、審判部の職権又は申立により、口頭審理を行うことができることが規定されている。
- 改めて審査
改正草案によると、拒絶複審では、専利を拒絶すべき事由の妥当性を改めて審理するとされている。このため、審判部は、拒絶査定書に記載されていない拒絶理由についても審酌することが可能である。
(三) 厳しくなる傾向にある分割出願関連規定
改正草案では、発明専利出願案件が拒絶複審手続きに入ると、分割ができないとされており、下の表に示すように、分割出願が可能な期間は大幅に前倒しされることとなる。

(四) 厳しくなる傾向にある補正関連規定
改正草案では、出願人は以下の時点にて補正の提出が可能である。
- 知財局の審査意見通知書を受け取る前は、随時自発補正可能。
- 知財局の審査意見通知書における応答・補正期限期間内において、随時補正可能。
- 拒絶複審請求時、併せて補正可能。
- 拒絶複審請求の手続きにおいて、審判部による応答・補正期限の通知を受け取った際、その期限内にて補正可能。
改正草案では、拒絶複審請求時と、拒絶複審段階にて通知を受けた応答期間にのみ補正が可能とされており、現行制度(特に再審査制度の補正に係る規定)に比べ、厳しくなる傾向が見られる。
(五) 専利出願の行政訴訟の変革
- 管轄裁判所と訴訟手続きの変更
改正草案によると、出願人が、審判部の原査定を維持する(拒絶すべきもの)との審決に不服である場合、訴願を経ずに、審決書を受け取ってから2か月以内に審判部を被告として知的財産及び商業裁判所に訴訟を提起することが可能であり、更に不服である場合は、(最高行政裁判所ではなく)最高裁判所に上訴することが可能であるとされている。また、改正草案では、専利関連の行政訴訟が全て民事訴訟へと変更されることとなるため、専利出願にかかる訴訟においても民事訴訟が適用されるが、裁判所はその権限に基づいて事実関係と証拠の調査を行い、当事者の主張や自白に拘束されることはない。
- 知的財産及び商業裁判所の審判
改正草案によると、出願人が原告となり、知財局を被告として、審判部の審決の適法性を対象とし、専利出願における審決取消訴訟を提起し、状況に応じて「知財局の原査定と審判部の審決の取消または変更」或いは「知財局に専利査定の処分を下すよう命じる」決定を裁判所に求めることができる。
二、意匠登録(設計専利)と実用新案(新型専利)に係る出願における審査
意匠登録においても、実体審査が行われるため、改正草案の専利出願審査に係る改正は、意匠登録にも適用される。また、改正草案では、意匠登録のグレースピリオド適用期間が、6か月から12か月に緩和される。
実体審査が行われない実用新案登録出願においては、知財局の方式審査にて実用新案登録を拒絶する処分をうけた場合、審判部への複審提起、(訴願を経ずに)さらに知的財産及び商業裁判所への訴訟提起をすることになる。
三、今後解決が待たれる課題
(一) 知財局の審査に関して
現行の初審の段階の実務では、知財局は、一度目の審査意見通知に対する応答にて指摘が克服できていなければ、直接、拒絶査定を出す場合が大部分となっている。しかし、改正草案における複審段階では、分割だけでなく、補正が可能な時期も厳しく限定されるため、第一段階の審査の重要性がより高まっている。知財局が、諸外国の制度や実務に倣い、拒絶査定前に、幾度か審査意見通知書を発することで、出願人に複数回の応答機会を与え、早い段階での分割と補正に便宜を与えるか否かは、観察に値する。
(二) 拒絶複審に関して
現行制度における「再審査請求の理由書の補完期限」の規定は、出願人に好意的なものとなっている。改正草案では「拒絶複審審判」が、出願人に好意的な審判請求理由書の補完期限を与え、現行制度を踏襲するか否かについては言及されておらず、この部分については、将来の審査基準の改正に際し、規定される可能性が見込まれる。
(三) 分割に関して
知財局は公聴会において、現在策定中である草案の内容は、まだ最終的なものではなく、今後修正される余地があると言及しているものの、改正草案では、専利出願案が拒絶複審の手続きに入ると、分割申請ができなくなるため、出願人の権益に、大きな影響を与えるものとなっている。また、専利出願案件の拒絶複審プロセスにおいて、前置審査を経て、直接専利査定を受けた案件に対し、「専利査定書送達後3月以内に分割」できるとの規定が適用されるか否かも、今後の発展が待たれる。