台湾専利審査基準では、請求項を「除くクレーム」にして、先行技術と重なる部分の技術内容を除外することを、原則的に認めないとしている。なぜなら、通常、「除外された内容は、それが除外されることを、出願時の明細書、特許請求の範囲又は図面から直接かつ一義的に知り得るものではない」ためである。
上記の原則は、審査基準における“発明専利”の「補正」の章で規定されている(審査基準第二篇第六章4.2.2節(7))。
しかし、同基準では、重なる部分の技術内容を除外する補正の適用が例外的に許容される。即ち、「ポジティブな記述」で明確かつ簡潔に除外後の対象を特定することができない場合、請求項における「先行技術と重複する」技術内容について、「除くクレーム」を用いて除外する定義を行ってもよいとしている。
このことから、国際実務で「undisclosed disclaimer(未開示の除くクレーム)」と呼ばれる補正が、台湾でも行えることがわかる。
また、海外では一般的に「除くクレーム」が適用される場合が制限される。即ち、“新規性”・“拡大先願”・“法定の不特許対象”に関する拒絶理由が通知された後に、「除くクレーム」による補正をすることが認められているものの、“進歩性欠如”については含まれず、複数の引例の組合せによる“進歩性欠如”については、尚更認められていない状況にある。そして、これと類似の制限は、特許後の訂正においても同様に扱われている。
しかし、台湾では、現行の審査基準において、このような制限が明文規定されていない。特に、審査基準では一つの引例により進歩性欠如が指摘されることができると規定されているが、この場合(新規性欠如とするのか進歩性欠如とするのかにつき見解が分かれることはさておき)、「除くクレーム」が適用できるか否かにつき争議になる。
2020年11月19日、台湾知的財産局(以下、「知財局」。)は、そのウェブサイトでこのテーマに対する解釈を述べている。これにより、専利審査基準がより明確化されたことになる。
そのポイントは、下記の通りである。
- 「除くクレーム」を適用できる状況
(1)「一つの先行技術と重複している部分」又は「法定の不特許対象」の除外に限られる。
(2)「一つの先行技術と重複している部分」の除外は、下記の3種の状況に限られる。
→「新規性欠如」とする引例を克服するため (専利法第22条第1項第1号) 。
→「拡大先願による新規性喪失」とする引例を克服するため (専利法第23条) 。
→「先願主義」に合致しないとする引例を克服するため (専利法第31条) 。ただし、「同日出願」の引例であれば適用されない。すなわち、「除くクレーム」で「同日出願」の引例を克服できない。
(3)「法定の不特許対象」の除外は、下記の2種の状況に限られる。
→「物」の発明の請求項における「ヒト」の部分を除外するため。
→「方法」の発明の請求項における「生命のある人体又は動物の体に実施される工程」を除外するため。
尚、このような規定は、特許後の訂正においても適用される。
- 台湾専利師公会(日本の「弁理士会」に相当。)からの質問状に対する知財局の説明
上記の解釈の公表は、専利師公会が「除くクレーム」の適用について知財局へ質問状を送付したことに由来する。この質問状への回答において、知財局は解釈の根拠について説明をしている。その趣旨は下記の通りである。
- 「除くクレーム」の適用に上記の制限がなされているのは、現行審査基準における例示及び内在的論理を総合して導き出した結果であり、審査基準に無い規定を増やすという問題はない。
- 進歩性の審査で引用する先行技術は、特許を受けようとする発明の関連性及び相違する技術的特徴が先行技術により容易に発明を完成することができたか否かを考慮しなければならないため、新規性欠如を克服する状況とは異なる。まして、進歩性で引用する先行技術は、複数の先行技術であることが普通で、明確な範囲がある一つのみの先行技術とは異なる。「除くクレーム」で進歩性の要件を克服したい場合は、認定の際に明確で一致する定義範囲を得ることが難しく、争議が生じやすい。
- 専利の審査は、特許を受けようとする発明と先行技術の比較結果に基づいて、新規性又は進歩性の要件が欠如しているか否かを判断する。新規性を有しないと認定したとしても、進歩性を有しないとすることにはならない。もし出願人が、進歩性を有しないとする審査官の認定について疑問を抱き、新規性欠如とすべきであると考え「除くクレーム」で補正をする場合は、応答意見書で具体的な理由を説明し、補正書を添付してもよい。この点については、一般的な応答や補正と同様である。
上述のように、「除くクレーム」による補正や訂正は、「新規性欠如」・「拡大先願による新規性喪失」・「先願主義違反」・「法定の不特許対象」という4種の特許を受けることができない理由を克服する場合に限られ、「進歩性欠如」の克服に用いることができないことが明確化された。
また、発明が進歩性欠如であると審査官が認定した際、挙げられた引例が一つのみで、客観的にみて新規性欠如とするべきであり進歩性欠如とするのは妥当ではないと考えられる場合は、上記のように応答意見書で説明する形で「除くクレーム」による補正を試みる余地がある。同様に、専利無効審判時に審判請求人が一つの引例で進歩性を否定してきた場合において、客観的に見て新規性欠如のみに係ると思われるとき、専利権者は答弁時に「除くクレーム」を用いて訂正を請求することもできる。
この知財局の解釈によって、審査基準の関連章節は補足が加えられ、より明確になったと言える。今後、知財局の専利審査実務、特に手続面において、どのような調整がなされるのか、引き続き注目すべきである。