台湾の会社法(中国語名:公司法)第23条第2項の規定によると、会社の責任者が会社の業務執行につき、法令に違反して他人に損害を蒙らせた場合、その他人に対し会社と共に連帯賠償責任を負わなければならない。以前の台湾最高裁の判決では、上記の条文の目的は、会社の責任者の権限濫用を防ぎ、被害者に対し多重に法的保護を付与するために、会社の責任者に連帯責任を負わせることにあるとされている。このため、台湾の知財実務では、権利侵害をした会社とともにその責任者が被告とされる民事訴訟事件が多々ある。しかし、もし会社の責任者が具体的な不法行為に関与していない場合、連帯責任を負わせるべきであるか、また、原告としては、会社の責任者が不法行為にどれほど関与したかをどの程度まで証明して初めてその責任者に連帯責任を負わせることができるかが、問題となっている。
この問題について、台湾の知的財産裁判所が被告会社の不法行為が成立し且つ損害賠償責任を負うべしと判断する場合、その行為が会社の責任者が会社の業務執行につき行ったものかを認定することとなる。そして、知的財産裁判所は従来、この認定に対しかなり低いハードルを設定しており、甚だしきに至っては、被告会社の責任者に登記された者である以上、会社の不法行為について連帯責任を負うべしというほどの緩やかな見解を示した判決もある。
例えば、ある新聞社が権利者(同業者)の同意を得ずに権利者の写真を自社の報道に用いて著作権侵害が成立したと認定された民事訴訟事件の二審において、原告が会社法第23条第2項により、被告(新聞社)の責任者が連帯責任を負うべしと主張したところ、被告の責任者は、自分が会社の総務にしか携わっておらず、その不法行為に関与していないため、不法行為の責任を負うべきではないと抗弁した。しかし、知的財産裁判所は、会社登記上の責任者である以上、連帯責任を負うべしと判断した(知的財産裁判所103年度民著上更(一)字第2号判決)。
被告が後ほど台湾最高裁に上告したところ、最高裁は、その106年度台上字第775号判決で、会社の責任者という身分を持つことのみで会社法第23条第2項の連帯責任を負うべしと認定してはならないと判断したほか、原審が「被告会社の不法行為がその責任者が取り扱う会社業務上の行為であり、且つ法令に違反する行為であるか」、「損害との間で因果関係があるか」、そして「何故その責任者が著作権侵害を防止する義務があるか」等について究明していないとし、二審に差し戻した。
その他、最高裁は、その後のある商標権侵害事件においても類似の見解を示し、裁判所が会社の責任者が会社法第23条第2項の連帯責任を負うべきかどうかを判断する場合、その責任者の業務執行の具体的な範囲が会社の不法行為に及ぶかを究明しなければならないとした(台湾最高裁106年度台上字第1836号判決)。
前記の最高裁判決は2018年に下され、その知的財産裁判所に及ぶ影響は今後注意を要する。調べたところ、2019年以降の知的財産裁判所の判決のうち、会社法第23条第2項を適用したものは少なくないが、その適用の理由は区々である。即ち、会社の責任者であれば連帯責任を負うべしと認定した判決がある一方、上記の最高裁の見解を用いて知的財産権侵害事件における会社の責任者の行為を評価したものも若干見られる。例えば、その107年民公上更(一)時第2号の民事判決で、権利者が被告会社(被疑侵害者)の責任者も連帯責任を負うべしと主張したが、知的財産裁判所はその責任者が会社業務の執行につきどのように法令に違反したかについて原告が立証していないとし、訴えを棄却した。また、105年度民著訴字第31号民事判決で、知的財産裁判所は最高裁の106年度台上字第775号判決の趣旨を引用し、会社の責任者が会社を代表して会社業務を執行するという対外的行為が第三者に損害を蒙らせることを会社法第23条第2項の要件とする上、その訴訟事件では、被告会社の不法行為がその責任者の業務執行とは関係がなく、会社の不法行為が会社の責任者が会社を代表して業務執行をしたときに行ったものではないとして、会社法第23条第2項の適用を否定した。
上記を総合すると、知的財産侵害事件において、被告会社の責任者が被告会社の不法行為について会社法の23条第2項の連帯責任を負うべしと原告が主張しようとする場合、裁判所に否定されないために、その条文の要件に留意して、会社とその責任者の業務の内容を説明すること等で適宜に立証する必要がある。一方、被告会社の責任者が連帯責任を負うよう請求された場合、「会社の不法行為が会社の責任者の業務執行上の行為か」に関して抗弁を行い、又は原告に立証責任を負うよう求めることで、連帯責任を問われることを回避することも考えられる。
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