台湾商標法30条1項9項の規定によると、外国のぶどう酒又は蒸留酒の地理的表示と同一又は類似の商標であり、かつ、ぶどう酒又は蒸留酒と同一又は類似の商品について指定するものは、登録を受けることができない。台湾では、市民感覚や購買習慣に合わせ、関連業者や需要者の多くは、1つ又は複数の中国語訳名によって外国酒類の地理的表示を表している。しかし、知財局の公表する商標混同誤認審査基準では、文字商標が類似するか否かは、商標の外観、観念又は称呼から判断するものとされている。そして、外国語商標(漢字以外による商標のことをいう。以下同じ。)の中国語訳は多様であり、音訳によるものと意訳によるものがあり、一般的に、知財局が文字商標の類似の有無を審査する際、中国語商標が当然に外国語商標と類似すると認定される訳ではない。しかし、今般、ある判例により、もし需要者が酒類商品を指定する中国語訳名商標を見た際にそれが外国酒類の地理的表示であると認識できる場合、たとえ唯一の、又は統一的な中国語訳名ではないとしても、当該中国語訳名商標は外国酒類の地理的表示と類似すると認定される可能性があることが示された。
「托凱」(中国語で「トゥオカイ」と発音する。)及び「皇家托凱」商標(以下、併せて「係争商標」という。)は、第33類「酒(ビールを除く。)」及び「ぶどう酒」商品を指定して、2014年に登録された。その後、知財局は、係争商標の無効審判において、「托凱」及び「皇家托凱」はハンガリーのぶどう酒の産地の地理的表示「Tokaj/Tokaji」と類似するとして、商標法30条1項9項の規定に基づき、商標登録を取り消した。商標権者はこれを不服として、訴願及び行政訴訟を提起し、知的財産裁判所の審理を経て、2019年11月21日に判決が下された。
訴訟手続において、「Tokaj/Tokaji」がハンガリーにあるぶどう酒の産地の名称であり、酒類の地理的表示であるという事実は、商標権者と知財局の間で争いがなかった。商標権者は、係争商標の「托凱」及び「皇家托凱」は、既存の語彙を援用したものではなく、自ら創作したものであり、「Tokaj/Tokaji」の地理的表示を翻訳したものでもないし、何らの意味も有しない、先天的識別力を有する商標であるとして、「托凱」と「Tokaj/Tokaji」は類似しないため、前記の商標法の規定の適用はないと主張した。しかし、知的財産裁判所は、係争商標の出願日より前に、「Tokaj/Tokaji」には、「托凱」(すなわち係争商標)、「拓凱」、「多凱」、「托卡伊」等の複数の中国語訳名があったが、訴訟記録によると、「托凱」は市場において広く通用し、又はよく見られる訳名であり、出願人の創作では決してないと認定した。また、ハンガリーの駐台北貿易事務所(Hungarian Trade Office, Taipei)の公式ウェブサイトでは、「Tokaj/Tokaji」ぶどう酒を「托凱」ぶどう酒と呼称していることから、関連需要者が「托凱」商標を見た時、ハンガリーのぶどう酒産地の地理的表示「Tokaj/Tokaji」の中国語名称であると考えるのであり、当該外国語に統一的翻訳がある必要や、音訳の中国語が完全に同一である必要はない。「托凱」商標は、ハンガリーのぶどう酒産地の地理的表示「Tokaj/Tokaji」の音訳と称呼が似通っており、需要者に与える観念も同一であり、両者は高度に類似している。よって、知的財産裁判所は、係争商標である「托凱」、「皇家托凱」について、前掲の商標法上の事由があるとして、知的財産局の拒絶処分を維持した。本件は上訴されたが、最高行政裁判所により2020年3月12日付で上告棄却され、確定した。
上記の事例のほか、知財局は過去に、酒類商品を指定する「詹姆士.軒尼詩 干邑新世代 (英訳:James Hennessy Cognac New Era)」と「cognac」、「高原典藏蘇格蘭威士忌(英訳:Highland collection Scotch Whisky)」と「Scotch Whisky」がそれぞれ類似すると認定し、前述の商標法の規定によって拒絶査定を行ったことがある。本件「托凱」商標と上記の2件の商標「詹姆士.軒尼詩 干邑新世代」及び「高原典藏蘇格蘭威士忌」が異なるのは、当地の需要者が既に「干邑」は「cognac」であり、「蘇格蘭威士忌」は「Scotch Whisky」であることを広く認識しており、中国語訳名と外国語商標に同一性を有するというつながりが生じているため、中国語訳名と英語の地理的表示が類似することに争いは生じにくい点にある。一方、本件の「Tokaj/Tokaji」のぶどう酒は当地の市場における知名度が比較的低く、中国語訳名も統一されていないので、知財局及び知財裁判所が「托凱」と「Tokaj/Tokaji」が類似すると認定したのは、外国酒類の地理的表示を広く保護しようとする立場を示しているといえる。
外国酒類の地理的表示の所有者は、商標法30条1項9号の規定によって第三者が外国語の酒類の地理的表示にかかる中国語訳名を出願登録することは禁止されると考えてよいが、外国酒類の地理的表示が台湾で商標登録を得ていない場合、第三者が外国語酒類の地理的表示又は中国語訳名を使用するのを禁止することは簡単ではないかもしれない。そのため、外国酒類の地理的表示の所有者は、台湾で商標登録出願することをお勧めする。例えば、「蘇格蘭威士忌」、「Scotch Whisky」、「愛爾蘭威士忌」、「IRISH WHISKEY」、「NAPA VALLY」は既に産地証明標章として登録され、CHIANTI CLASSICO、BAROLO、BARBARESCO、VERNACCIA DI SAN GIMIGNANO、琉球泡盛等は産地団体商標として登録されている。なお、産地商標についてより詳しく知りたい場合は、弊所のGI Protection in Taiwanの文章を参照されたい1。
1 http://www.saint-island.com.tw/EN/Knowledge/Knowledge_Info.aspx?IT=Know_0_3&CID=574&ID=1622
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