台湾最高行政裁判所は今年(2020年)の二月に、知的財産裁判所のある無効審判に対する審決取消訴訟で、やや珍しい判決を下した。
当該審決取消訴訟において、無効審判を掛けられた係争実用新案に対し、新たな証拠が提出された。しかし、無効審判の段階で勝ち取った実用新案権者は、口頭弁論の期日に欠席した。そのまま判決が下されたが、最終的に破棄・差し戻しされた。その理由を以下にかいつまんで説明する。
- 無効審判請求人は、2015年にある実用新案権に対して無効審判を請求した。台湾知的財産局は、請求人の挙げた証拠1と証拠2に対して、実用新案権の有効性がないという証明には至らないと、有効審決を下した(以下「本件審決」という)。無効審判請求人は不服のため、行政不服申し立てとして、「訴願」を申し立てた。(台湾において、知的財産局の審決に不服であった場合は訴願という手続きを申し立てる。審理は知的財産局の上級行政機関である経済部にある訴願委員会が担当する。)審理の結果、審決は維持されたままとなった。
- 無効審判請求人は、引き続き不服として知的財産裁判所に審決取消訴訟を提起し、さらに新しい証拠3及び証拠4を提出した。
a. 知的財産裁判所は、行政訴訟法に基づき、職権により当該実用新案権者を参加人として当該訴訟に参加するように命じた(台湾においては、無効審判審決に不服する側は行政訴訟の原告になるが、被告はあくまでも行政機関である知的財産局のため、“相手方”は被告としてではなく、「参加人」として訴訟を参加するわけである)。
b. 知的財産局は当該訴訟において、証拠3及び証拠4を参酌すると、係争実用新案に進歩性がないと認めるべきであると答弁したが、起訴した後に初めて提出した証拠とのことで本件審決に違法はないとも答弁した。参加人である実用新案権者は、出頭しないままであった。
c. 最後に知的財産裁判所は、訴願決定及び本件審決を取消、知的財産局は係争実用新案に対し、「請求項1~10に記載された考案についての実用新案XX号を無効とし、取消すべきである」という処分を下すべきであると判決した。
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係争実用新案権者は被告側の参加人として単独で上告する権限があるため、最高行政裁判所に上告し、知的財産裁判所に以下の違法があると主張した。
a. 当人は原審の口頭弁論において出頭していなかったが、原審の原告側も「片方だけの弁論手続き」(後述)を申し立てていなかったため、知的財産裁判所は直ちに口頭弁論を行い、判決を下すべきではない。
b. 知的財産局の提出した補足答弁書の副本を当人に送達していなかったため、知的財産局は新しい証拠によって係争実用新案が進歩性を有しないと認めた詳しい理由について当人は知る由もないので、口頭弁論の期日中に訂正請求をする等の適切な防御を行い損なった。
- 台湾の民事及び行政訴訟法によると、“片方の当事者”が口頭弁論の期日に出頭しないとき、出頭した当事者の申し立てにより、そのまま片方だけの弁論をさせてから、判決を下すことができる。或いは、別途期日を定め、再度通知しても出頭しない場合は、職権により片方だけの弁論をさせ、判決を下すことができる。その判決は台湾法において「片方弁論判決」(中国語:「一造弁論判決」)といい、日本法の対席判決に近い概念である。
これまでも、知的財産関係の行政訴訟原告でなく、被告でもない「参加人」が出頭しなかった場合に、上記の規定を適用するかどうかをめぐって争議があった。しかし、ここで最高行政裁判所は、恐らく知的財産案件の特殊性を踏まえ(参加人でありながら実際は権利者である等)、明確に「参加人」である実用新案権者を“片方の当事者”として捉えた。そして、当人が口頭弁論の期日に出頭せず、出頭した当事者の片方弁論という申し立てがない以上、知的財産裁判所は、そのまま「片方弁論」を済ませて判決を下すことはできないと判示し、上記の手続きは行政訴訟法に違反するとの由で原審判決を破棄し、適法の裁判を行うよう差し戻した。
つまるところ、本件において、最高行政裁判所の破棄する主な理由は、申し立てされていないまま弁論が済ませされ判決が下されたということにあるが、案件の実質的な面からすると、知的財産裁判所の原審及び知的財産局は係争実用新案に対して、新しい証拠により進歩性のない心証が生じてしまっている。本件の差し戻し審において、原審の証拠の組み合わせによる不利な態勢に対し、実用新案権者は如何に防御して覆すことができるのかが、大きなポイントになるであろう。
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