1996年に公布・施行された台湾の「営業秘密法」には、2013年の法改正で営業秘密を侵害する際の刑事責任に関する規定が新設されたが、2018年に台湾の国会議員は当該規定に関連して再度改正草案を提出し、今年中に可決される見通しである。
そして、今回の改正草案には二つの重要なポイントがあり、即ち「刑事捜査内容秘密保持命令」(中国語名:刑事偵査内容保密令)の制度の新設、及び国外にいる営業秘密の持ち主に対する保護の拡大である。
一、「刑事捜査内容秘密保持命令」の新設
営業秘密侵害案件を取り調べる際、検察官は高度な技術に触れると同時に、被害者の営業秘密に対する保護に注意を払わなければならない。このため、「刑事捜査内容秘密保持命令」の新設により、検察官に迅速かつ円滑に取り調べを行わせるとともに営業秘密に対する保護を強化することを企図している。改正草案の主な内容は下記のとおりである。
- 検察官が営業秘密侵害事件に対する捜査のため、必要とする場合、その職権により刑事捜査内容秘密保持命令を下すことができる。検察官は、書面でこの命令を下さなければならないが、各関係者の協議を経て、調書に明記することで書面に代えることができる。
- 捜査の内容を容疑者、被告、被害者、告訴人、代理人、弁護人、鑑定人、証人、その他の関係者に提示しなければならない。
- 刑事捜査内容秘密保持命令を受けた者は、捜査の内容について下記の行為を行ってはならない。
(1) 捜査手続以外の目的に使用すること
(2)刑事捜査内容秘密保持命令を受けていない者に開示すること
但し、刑事捜査内容秘密保持命令を受けた者が捜査前にその捜査の内容を取得、所持した場合、これを適用しない。
- 下記の事情のいずれかがある場合、検察官はその職権又は刑事捜査内容秘密保持命令を受けた者の申立により、その刑事捜査内容秘密保持命令を停止・変更することができる。
(1) 秘密を保持すべき原因が消滅した場合
(2) 裁判所が秘密保持命令を下した場合
(3) 事件が起訴に至り、裁判所に係属した日から60日が経った場合
検察官が前記の停止・変更の処分を行う場合、刑事捜査内容秘密保持命令を受けた者又はその利害関係者に意見を陳述する機会を与えることができる。なお、刑事捜査内容秘密保持命令を受けた者又はその利害関係者は、検察官の停止・変更処分に不服を申し立てることができ、その手続きには刑事訴訟法を準用する。
- 刑事捜査内容秘密保持命令に違反した場合の刑事責任
刑事捜査内容秘密保持命令に違反した場合、3年以下の有期懲役、拘留に処し、若しくは台湾元100万元以下の罰金を科し、又は併科する。台湾国外で刑事捜査内容秘密保持命令に違反した場合、犯罪地の法律に規定があるか否かを問わず、この規定を適用する。
二、国外にいる営業秘密の持ち主に対する保護の拡大
改正草案が可決されれば、法人が台湾に設立されるものでなくても、訴訟の主体となることができ、即ち、民事訴訟、刑事告訴、又は自訴(犯罪被害者等が検察官の代わりに自ら原告として刑事訴訟を提起する制度。日本にはない。)を提起することが可能となる。
従来の台湾実務上、「認許」(外国法人の台湾における法人資格について台湾当局に承認を受けること)を受けていない外国法人には自訴を提起する権利がなく、刑事告訴を行う権利があるかどうかは事件ごとの検察官と裁判官の判断によるとされてきたが、刑事責任を設ける著作権法と商標法には既に、認許を受けていない外国法人でも告訴権を享有すると規定しているので、このような規定の無い営業秘密法は他の知的財産権を保護する法律とは調和が取れない状態にあり、外国法人に対する保護が不十分となっている。ましてや、2018年に改正後の台湾公司法(会社法)が施行されて以来、外国法人に対する認許制度は撤廃されたので、この部分に関連する法改正の必要性がいやがうえにも増している。
なお、現行の営業秘密法の第15条は互恵主義の規定であり、「外国人の属する国と中華民国に営業秘密を保護する相互の条約若しくは協定がない場合、又はその国の法令により中華民国国民の営業秘密が保護されない場合、その営業秘密を保護しないことができる。」としているが、WTO体系下のTRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)のような複数国間条約がある場合はどのように対応するかは明文で規定されていない。したがって、今回の改正草案では、上記の規定は「外国人の属する国と中華民国がともに営業秘密を保護する国際条約に加盟しない場合、営業秘密を保護する相互の条約若しくは協定がない場合、又は中華民国国民の営業秘密が保護されない場合、その営業秘密を保護しないことができる。」と改正される予定である。
上記の改正の必要性は、2019年3年の知的財産裁判所のある刑事事件の二審判決(108年刑智上訴字第5号)から見て取れる。この事件では、告訴人即ち営業秘密の所有者・Haldor Topsoe A/S(以下、HTAS社という)はデンマークの会社であるが、台湾とデンマークには営業秘密を保護する相互条約がなく、HTAS社も台湾で認許を受けていなかった。このため、検察官がこの事件の被告がHATS社の営業秘密を侵害したとして刑事訴訟を提起したが、一審の地方裁判所は、デンマークの会社の営業秘密は台湾で保護されず、HTAS社に告訴権がないとして検察官の訴えを却下した。検察官が控訴した後、知的財産裁判所は、平等主義に基づいてできるだけ台湾国籍を持たない営業秘密の所有者に台湾人と同一の保護を与えるべきであり、現行の営業秘密法に不備があることのみをもって、営業秘密法が意図的に認許を受けていない外国法人の告訴権を否定していると解釈してはならないとして原判決を破棄し、原審に差し戻した。
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