台湾公平交易法(日本の公正取引法に当たる。)の第25条は、「この法律において別途規定がある場合を除き、事業者はまた他の取引秩序に影響を及ぼすに足りる欺罔又は著しく公正を欠く行為をしてはならない」と規定しており、この規定は、具体的な不正競争行為を規制する同法第21条から第24条を補充する包括的規定である。これについて、公平交易法第25条の適用要件を明確化・類型化するために、公平交易法の主務官庁である公平交易委員会(日本の公正取引委員会に当たる。)は「公平交易委員会の公平交易法第二十五条案件の処理原則」(中国語名:公平交易委員会対於公平交易法第二十五条案件之処理原則。以下、処理原則という。)を発布している。
公平交易法第25条と民法、消費者保護法等の規定との適用の区別を明らかにするために、処理原則の第2条は、「取引秩序に影響を及ぼすに足りる」ことを、公平交易法第25条を適用するかどうかを判断する際の拠り所としなければならないとしている。言い換えれば、取引秩序に影響を及ぼすに足りる行為であって初めて公平交易法第25条による制限を受けることとなる。一方、処理原則の第5条によると、取引秩序に影響を及ぼすに足りる行為であるかどうかを判断するに当たり、被害者数の多寡、損害の量と程度、行為の方法と手段、行為の頻度と規模、行為者とその相手方との情報の非対称性の存否、取引慣習、産業特性等を総合的に考慮しなければならない。
近頃、台湾最高裁は、ある外国資本系製薬会社と台湾本土の製薬会社との医薬品包装箱のデザインに係る紛争に対し107年度台上字第1967号民事判決を下し、医薬品包装箱が「取引秩序に影響を及ぼすに足りるかどうか」を判断する際の原則について重要な意味を持つ見解を示した。以下では、この判決の主なポイントを紹介する。
一、 案件の背景
この訴訟案件は、高血圧を抑制するための医薬品の包装箱に係る紛争である。先発医薬品「易安穏」の製薬会社(原告)は、被告の製薬会社が「易安穏」の包装箱に類似するデザインを自社のジェネリック医薬品「得平圧」の包装箱に使用しているため、原告の著作権を侵害しているほか、公平交易法にも違反しているとして被告を提訴した。(各々の包装箱の図は下記のとおりである)
| 易安穏 |
得平圧 |
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一審裁判所(知的財産裁判所)は原告の全ての請求を棄却したため、原告が控訴したところ、同じく知的財産裁判所による二審判決では、被告が著作権を侵害していないものの、「易安穏」と「得平圧」の消費者は一般民衆を含み、「易安穏」が販売開始後、長期に渡りオレンジ色、白色、藍色の四角形が配置された包装箱を使用しており、商品の出所を連想させるに足り、関連事業者と消費者にもよく知られているとした上で、藍色、白色、及びオレンジ色に高度に類似する黄色を「得平圧」に使用することで「易安穏」の包装箱のデザインを剽窃する被告の行為は、取引相手に「得平圧」が「易安穏」と同一の出所に由来し、又は両者がシリーズ商品であると誤認させ、かつ、「易安穏」の外観及び広告効果に便乗することで、消費者が持つ印象を向上させ、市場競争の優位を獲得していることから、公平な競争の拠り所たる交易秩序に影響を及ぼすに足り、公平交易法第25条に違反するとされた。
二、 台湾最高裁の見解
台湾最高裁は、公平交易法第25条を適用する場合の補充的原則について下記の見解を示したうえ、前記の二審判決を破棄し、案件を差し戻した。
(一) 事業者の行為が欺罔的でなく又は著しく公正を欠くものでない場合、市場競争を妨げない場合、若しくは取引秩序に影響を及ぼさない場合、公平交易法第25条を適用しない。
(二) 公平交易法第25条を適用しようとする際、「取引秩序に影響を及ぼすに足りる」かどうかを判断するに当たり、取引慣習、産業特性を考慮しなければならない。
最高裁の判断では、原審は「易安穏」も「得平圧」も医師が処方する医薬品であると認定したものの、医師が処方する医薬品の取引慣習、産業特性、そしてその広告が医学の学術刊行物にしか掲載できない等の事実を考慮しておらず、また、医師が処方する医薬品の取引の取引相手(業者、病院、診療所、その他医療、検査、学術研究機関、患者等の一般人)が購入意思を決定する際の判断要因は何か、「得平圧」の包装箱により取引相手に商品の出所の混同が生じるか、被告の行為が高血圧を抑制するための医薬品の取引秩序にどのような影響を及ぼしたか、被害者数の多寡及び損害の量と程度はどれほどか等の、被告の行為が取引秩序に影響を及ぼすに足りる欺罔又は著しく公正を欠くものであるかどうか、そして損害の範囲、程度等を判断する際に究明すべき事項を究明していないとされ、原判決に理由不備の違法があるとした。
上記の最高裁判決は公平交易法第25条の適用時に考慮すべき事項についてより詳しく説明しており、それが裁判所又は主管官庁の一致した見解になれるかどうかは、今後の注目に値する。