周知のように、台湾専利法では植物は専利権による保護の対象外である。しかし、植物の新品種が台湾農業委員会農業食糧署が認める品種に属し、同時に、新規性(novelty)、区別性(distinctness)、均一性(uniformity)、安定性(stability)(後ろから3つをまとめてDUS要件とも言う)を有する場合は、人工栽培あるいは遺伝子組み換え栽培にかかわらず、「植物品種及び種苗法」(以下、植種法と称す)により、植物の新品種に係る育成者権による保護を受けられる。国内外の経済価値の高い植物(例えば、食用作物、観賞樹等)の新品種の多くが、既にこのような権利保護を受けている。
育成者権の出願人は、出願の公開及び審査を経て、上記要件を充たすと認定された場合、育成者権を取得することができる。育成者権の権利範囲には、保護されている品種自体とその従属品種も含まれる。従属品種とは、①保護されている品種に本質的に由来する品種、②保護されている品種から明確に区別されない品種、③保護されている品種を反復して使用することが生産に必要な品種等である。育成者権の期間は、永年性植物(たとえば木本植物である樹木、多年生つる植物であるぶどう等)については登録公告の日から25年、その他の植物は原則として20年である。育成者権の期間内において、育成者権者は、育成者権者の許諾無しに、他人が、保護されている品種の種苗及び種苗から得た収穫物の生産又は再生産(繁殖)、販売の申出、販売その他の販売手段、輸出、輸入等の行為を行うことを排除する権利を専有する。さらに、育成者権者は、故意又は過失により育成者権を侵害した者に対し、損害賠償を請求すると共に、侵害に係る物又は侵害の行為に供した原料あるいは器具の廃棄、又はその他必要な処置を請求することができる。
植種法は1988年に制定、公布、及び施行されたものであり、数度の改正はあったが、育成者権侵害訴訟関連の判決は見られなかった。2008年7月に知的財産裁判所(以下、知財裁判所と称す)が設置され、植種法に係る民事訴訟の優先管轄権を有することになったが、植種法に係る侵害訴訟の最初の判決が下されたのは2018年12月になってからのことであった(その第二審判決の事件番号は「105年度民植上字第1號」、第一審判決は2014年台湾彰化地方裁判所の「101年度重訴字第156號」民事判決)。当該判決において、知財裁判所は、地方裁判所の第一審の侵害不成立との認定を覆し、原告が主張する全損害額を侵害行為による損害賠償額と認定した。その事件を以下に紹介する。
本件原告は、2010年7月15日に行政院農業委員会(以下、農委会と称す)に四季橘金剛(以下、係争品種と称す)に係る育成者権を出願すると共に、植物、葉(翼葉付き)、花、果実等の品種の特性を文字で説明し、図(写真)(次ページ)を併せて提出した。当該出願は同年7月20日に公開された。

その後、係争品種の出願の審査期間において、本件被告は、農委会に係争品種は新規性を有しない旨を陳情したが、農委会は立証不足としてその主張を認めなかった。2012年9月14日、当該係争品種に係る育成者権証が発行された。その後、被告は再び係争品種は新規性を有しないとして、農委会に係争品種に対する品種登録を異議申立てをしたが、農委会は提出された証拠が十分ではないとして、当該異議申立てを棄却した。
一方、本件育成者権者は、係争品種出願を公開した後、被告等が係争品種の苗木及び盆栽を繁殖及び販売していることを発見した。被告等は出願したことを通知されたにもかかわらず、係争品種に係る育成者権の登録公告の前から公告された後も、その繁殖・販売行為を継続した。よって、原告は権利を受けてから育成者権侵害訴訟を提起して、侵害行為の差止及び損害賠償を請求すると共に、係争品種に係る育成者権の出願公開後から登録公告前の侵害行為に係る補償金請求も行った。本件の主要な争点は、被告の苗木が係争品種に係る育成者権の権利範囲に入り育成者権の侵害となるかどうかであり、その立証責任は原告にあった。第一審において、原告は、自ら撮影した写真及び農委会が作成した係争品種の新規性調査表を証拠として提出したが、裁判所は、原告が提出した証拠は侵害を認定するには不十分であり、特に、農委会が作成した新規性調査表は原告が所有する苗木に基づいたものであり、被告が所有する苗木とは関連性がないと認め、さらに、第一審の地方裁判所は、農委会の関連専門家に被告の農場で現場調査を行なわせたが、当該専門家はその場で侵害か否かを判断することができなかったため、原告敗訴の判決が下された。
本件が第二審の高等裁判所に上訴されてから知財裁判所に移行した後、第二審の裁判所は、植種法における原告の立証活動及び裁判所の証拠調査に関し、画期的な審理方式を採用した。原告被告双方の同意を得て、裁判所は、原告被告双方の盆栽を第三者、すなわち農委会嘉義試験所に保管し、育種・栽培を行い、植物の形質が安定した後に、対比鑑定(同定)を行った。計3年余という時間を要したが(本件の場合、植物の形質が安定するまでに、開花を待つのみならず、2シーズンの経過が必要であった)、最終的には、2018年9月に農委会は鑑定(同定)の結論を得て、裁判所は当該結論に基づき、侵害の成立を認めた(原告被告双方の植物の形質の比較写真は以下の通り)。


知財裁判所の本件の損害賠償に関する判断は、植種法にも画期的な意義をもたらすものであった。植種法では、損害賠償の算定方式は、育成者権者が受けた損失及び逸失利益、あるいは、侵害者が侵害行為により得た利益等を用いる方式から択一することになっており、後者を選択した場合、侵害者が侵害物の原価あるいは他の必要経費を立証できないときは、その物の販売によって得た収入の全額を侵害行為によって得た利益とすると規定されている。
本件の損害賠償の算定のために、知財裁判所は被告等に侵害栽培植物の数量及び販売金額等の資料を提出するよう求めたが、被告等は口頭弁論終結時に至るまで何も提出しなかった。そのため、裁判所は原告が提出した販売時の領収書を基に、被告等の侵害栽培植物の市場販売価格を認定し、農委会が製作した数量の調査記録表により、被告等の侵害栽培植物の株数を総計した。最終的に、知財裁判所は、原告の請求金額を基にして、二名の被告それぞれの賠償金額をNTD75万及びNTD 390万と判示した。
この事件から分かるように、育成者権に係る植物の形質が同一であるか否かは専門技術の領域であり、その判断は専門的な機関によらなければ実質的には困難であるものの、育成権者が権利行使前に十分に計画すれば、訴訟中の鑑定(同定)期間を短縮することは可能であろう。市場利益の保護のために必要であれば、仮の地位を定める仮処分の申立てを行うことも対応策の一つである。