台湾では、新型専利(実用新案)の登録出願の審査にあたり、方式審査のみが行なわれ、新規性・進歩性等の専利要件の有無に関する実体審査は行なわれない。また、新型専利権を濫用する行為を防ぐために、台湾の専利法に技術評価書(中国語名:新型専利技術報告)に関する制度が設けられている。専利法第115条によると、何人も台湾の知的財産局に対し技術評価書を発行するよう請求することができるほか、同法第116条によると、新型専利権者が新型専利権を行使しようとする場合、技術評価書を提示せずに警告を行なってはならないとされている。そして、上記の第116条に違反する場合の法的効果について、「新型専利権者の新型専利権が取消しとなった場合、その取消しの前に新型専利権を行使して他人に損害を与えたときは、賠償責任を負わなければならないが、技術評価書の内容に基づき、かつ、相当の注意を尽くしていた場合は、この限りでない」と同法第117条で規定している。
上記のように、専利法には技術評価書を提示せずに警告を行なってはならないという規定があるにもかかわらず、実務上、技術評価書を提示せずに警告を行なった実例は少なくない。この現象に関して、台湾の知的財産裁判所の多数意見では、技術評価書を取得せずに新型専利権を行使してもあながち不法行為に該当せず、新型専利権者が既に義務を尽くしていたことを他の証拠で認定できれば、新型専利権者は損害賠償責任を負わなくてもよいとしている。例えば、知的財産裁判所の105年(2016年)度民専上字第30号民事判決では、技術評価書の取得、提示に係る規定は新型専利権者に故意、過失がないことを立証することに関する例示規定でしかないとされている。なお、同判決によると、新型専利権者が技術評価書を取得しない場合、もしその新型専利権者が既に注意義務を尽くしたことを客観的な証拠で証明できれば(例えば、予め専門家から新型専利権侵害の鑑定書を取得することで新型専利権を行使することが適切であると確認できる場合)、新型専利権者が既に義務を尽くしていたことを立証したと認定されるべきであり、技術評価書を提示しないことを理由に直ちに権利侵害の故意又は過失があると認定してはならない。
さらに、知的財産裁判所105(2016)年度民公上易字第2号判決では、新型専利権者が既に知的財産局に対し技術評価書を発行するように申請したものの、知的財産局の評価結果が未だに出ていないときにその新型専利権が侵害されたことに気付き、迅速にその権利を行使することで損害の拡大を防ぐために、技術評価書の取得が間に合わなくても、既に専門家に助言を求めて侵害された事実を確認して初めて相手側に対し新型専利権侵害の警告を行なった場合、新型専利権者は既に相当の注意を尽くしていたことを立証し、主観上権利侵害の故意、過失がないとされている。
しかしながら、最近の台湾最高裁判所(以下、最高裁と称する)107(2018)年度台上字第2360号民事判決で、最高裁は上記の知的財産裁判所と異なる見解を示した。最高裁の見解によると、2011年12月21日に改正・発布された専利法では、2003年の旧専利法における「新型専利権の技術評価書に基づき、又は既に相当の注意を尽くして権利を行使した場合、過失がないと推定する」という規定は「技術評価書の内容に基づき、かつ、相当の注意を尽くしていた場合は、この限りでない」に改正され、改正の目的は、方式審査のみを受けて新型専利権を取得した者がその権利を濫用し、又は不当に行使することを防止することにある。その新型専利権が取消しになった場合、他人の被った損害に対して賠償責任を負わなければならない。なお、新型専利権者が免責するための立証責任も加重され、即ち、権利の行使が技術評価書の内容に基づくものであるほか、権利者が相当の注意を尽くして初めて免責できる。
最高裁の上記の見解によると、技術評価書の提示は損害賠償の免除の必要条件であり、たとえ新型専利権者が第三者の侵害鑑定報告書を取得しても、技術評価書の提示義務を免れることができない。従って、新型専利権者が権利を行使しようとする場合、不当に新型専利権を行使することを理由に訴えられるリスクを軽減するため、既に技術評価書を取得したかどうかを確認することが望ましい。一方、専利法第117条におけるもう一つの要件である「相当の注意を尽くしていた」が具体的に何を意味するかは、今後の台湾知財判決がどのようにそれを明確化するかを観察する必要がある。
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