中国では、2014年に施行された新商標法において、音商標が登録可能な商標態様のひとつに加えられたが、音商標はその他の非伝統的商標、例えば、立体商標、色商標等と同じく、登録出願時に識別力を備えないために登録が認められないことがほとんどであったところ、2018年9月、テンセント(騰訊科技(深圳)有限公司)が出願した第14502527号「ディディディディディディ」音商標(以下「本件商標」という。)は、北京市高級人民法院(日本における高等裁判所に相当。以下「北京高裁」という。)より識別力を有し登録が認められる商標であると認定され、初めて裁判所の審理により後天的な識別力が認められた登録可能な音商標となった。
テンセントが1999年にリリースしたインスタントメッセンジャーサービスQQ(以下「テンセントQQ」という。)は、「QQ」の文字及びペンギン図の「
」を商標とするほか、単純に繰り返される「ディディディディディディ」の音を通知音としている。テンセントQQは、現地の消費者に受け入れられ、中国だけでなく、全世界で最も多くの使用者を擁している 。テンセントは、ノキア社(中国登録第14515370号音商標)、インテル社(中国登録第14580049号音商標)、ヤフー社(中国登録第15411823号音商標)等のインパクトの強い音商標と同様に、本件商標を音商標として登録するため、2014年5月4日、中国において、本件商標を第38類の「インターネット利用のチャットルームの提供、電子メールによる通信、メッセージの送信、デジタルファイルの伝送交換、オンラインフォーラム形式による通信、コンピュータを利用したメッセージ及び画像の伝送交換、オンラインによるグリーティングカードの伝送交換、テレビジョン放送、遠隔会議、通信社のサービス」等を指定役務として出願した。しかし、中国商標局及び再審査機関の商標評審委員会(Trademark Review and Adjudication Board)は、単純で平凡な音調又はリズムから構成された本件商標に依拠して商品又は役務の出所を識別することはできず、識別力を具えないとして、拒絶査定を下した。その後、この結果を不服とするテンセントは、北京知的財産裁判所に行政訴訟を提起し、勝訴したが、商標評審委員会は当該判決を不服として、さらに北京高裁に上訴した。最終的に、北京高裁は、北京知的財産裁判所による一審判決を維持した。
北京知的財産裁判所及び北京高裁の判決を分析したところ、本件の争点及び判決理由は次のとおり整理される。
- 本件商標に識別力があるか否かについて
両裁判所は、本件商標は先天的な識別力を具えないものの、テンセントが提出した使用証拠より、本件商標がインスタントメッセンジャーサービスに継続的に使用されている期間は長く、その範囲も広く、またその市場シェアも高いことから、本件商標とテンセントが提供するインスタントメッセンジャーサービスとの間に一定の関連性があることを証明できるため、本件商標がメッセージの送信等の役務においてすでに出所を識別する拠り所になっていることを認定した。
- 本件商標は登録拒絶事由である機能性(functionality)を持つか否かについて
北京知的財産裁判所は、本件商標の音は、テンセントQQのソフトウェア実行時に必然に生じる音でなく、メッセージを送信するときに発せられる人為的に設定された通知音であるため、本件商標は機能性を持たないと認定した。
- 本件商標が取得した後天的な識別力の範囲について
北京知的財産裁判所が本件商標が指定する役務のすべてに対し後天的な識別力を具えると認定したのに対し、北京高裁はそれと異なり、テンセントが長期にわたって広範に本件商標を使用していたのはインスタントメッセンジャーサービスであることから、「インターネット利用のチャットルームの提供、電子メールによる通信、メッセージの送信、デジタルファイルの伝送交換、オンラインフォーラム形式による通信、コンピュータを利用したメッセージ及び画像の伝送交換、オンラインによるグリーティングカードの伝送交換」等の役務についてのみ後天的な識別力を取得したことを認めたが、本件商標が「テレビジョン放送、遠隔会議、通信社のサービス」等に使用されていないことから、これら3つの役務について後天的な識別力を取得したことを認めず、当該部分の登録を拒絶すべきであるとした。
前記の北京高裁の判決は終審判決であるため、商標評審委員は当該判決に基づいて出願第14502527号商標の部分的指定役務の登録査定を下す見込みである。
台湾においても、音商標が2003年より商標登録出願できるようになったが、関連する審査基準は中国と同様であり、知的財産局に音商標は一般的に先天的な識別力を具えないとみなされるため、商標権者が大量に使用証拠を提出し、かかる音商標がすでに後天的な識別力を取得したことを証明しない限り、登録査定を得られないのが現状である。そのため、音商標は大量に広範的に使用し、関連需要者にそれが商品又は役務の出所を示すものであることを熟知させてはじめて登録されるといえよう。
[1]テンセント社の2017年度財務報告によれば、テンセントQQの月間アクティブアカウント数は7.83億に達したという。http://tech.qq.com/a/20180321/030319.htm
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