専利要件である進歩性の審査をする際に、審査官が偏狭な技術観点のみに基づいて後知恵的な誤謬を生むことを避けるため、台湾専利審査基準には“商業的成功”等の補助的な判断要素が規定されている。かねてから、行政裁判所の判決において、例えば最高行政裁判所の2015年8月27日の104年(西暦2015年)度判字第487号判決でも、専利権者が商業的成功等の補助的な判断要素について主張し証拠を提出することを是とし、裁判所は調査・斟酌すべきとしている。
しかし、実際の判決結果を見ると、商業的成功を主張することによって専利権者が裁判官を説き伏せることができた事例は極めて少ない。まず、商業的成功とは何か。専利審査基準では「専利を出願する発明が商業的に成功し、かつその成功が発明の技術的特徴により直接導き出され、販売技術や広告宣伝といったその他の要素からなるものではない」という事実があれば、進歩性の補助的な判断要素とすることができると規定している。多くの案件において、行政裁判所が商業的成功による主張を採用しないとした主な理由として、専利権者が挙証責任を全うすべく「商業的成功が発明の技術的特徴により直接導き出されたこと」を証明できなかった旨を挙げている。つまり、商業的成功と発明の技術的特徴の間に十分な関係性(nexus)を備えるという要件があり、関係性の挙証不足が裁判所に“商業的成功が、販売技術や広告宣伝、或いは市場の需要供給状況や社会経済全体の景気といったその他の要素により導き出されたことを排除し難い”と判断されたのである。
注意すべきなのは、知的財産裁判所が2019年2月14日に下した、商業的成功の主張を認めた107年(2018年)度行專訴字第75号行政訴訟判決である。この件における係争専利は、折り畳み可能で収納に便利な保温フードカバーに係るものであり、専利権者にとって2代目の保温カバー商品である。1代目の保温カバー商品との違いは、係争専利の折り畳みができるという改良技術の特徴である。裁判所は係争専利の商業的成功を認め、1代目の折り畳みできない保温カバー商品の販売後、市場において模倣する人はいなかったが、係争専利である2代目の折り畳み可能な商品を販売した後、模倣者は2代目の商品を選んで模倣したと指摘した。そして「このことから、模倣者は2代目商品である折り畳み可能な技術的特徴の独自性及び商業的価値を見て模倣し始めたことが分かり、2代目商品の折り畳み可能な設計は模倣者が模倣する重要な要素である。したがって、2代目商品の商業的成功は確かに係争専利の折り畳み設計の技術的特徴により直接導き出されたものであり、販売技術や広告宣伝により導き出されたわけではない。よって、係争専利が確かに商業的成功を収めたと認定でき、進歩性を認める要素がある。」と述べた。上記判決の見解は、商業的成功及び関係性を認めたことの他、裁判所の心証の形成に影響を及ぼすことができる事実理由に「他人が模倣する(copying by others)」ということが含まれていることも示された。これは、台湾専利審査基準における補助的判断要素に規定されているものではない。
成功を収めた商品の背後には、おそらく多くの因子があったと思われ、商業的成功を明確にして裁判所において挙証・説得することは、専利の技術的特徴からだけでは非常に難しく、この観点から見れば、上記の知的財産局の判決は認めるに値すると言えよう。具体的な案件において、商業的成功を主張する専利権者は、その他の補助的な判断要素を組み合わせて提出することを考慮すべきである。例えば上記判決で指摘した他人による模倣や、審査基準で提示されている“発明が予期できない効果を奏すること・長期にわたって存在する課題の解決・技術偏見の克服”等を挙げ、できる限りの挙証を以て裁判官を説き伏せるべきである。
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