台湾の日盛金融控股份有限公司(金融持株会社、以下、金融控社といいます)は、2012年の初めに同一の企業グループに属する日盛証券股份有限公司(以下、証券社といいます)の登録商標を引用し、日盛保全股份有限公司(以下、保全社といいます)と日盛國際租賃股份有限公司(以下、租賃社といいます)が台湾知的財産局に登録した14件の「日盛」商標に対し、異議申立を提起しました。
知的財産局は2014年の末に、上記の全ての異議申立を却下しました。金融控社は訴願(不服申立)を提起したものの却下され、救済を求めるべく、知的財産裁判所に対し行政訴訟を提起しました。
このとき、証券社も知的財産裁判所に起訴し、行政訴訟の共同原告として金融控社と共に起訴することを希望すると表明しました。その理由として、金融控社が異議申立を提起した際の引用商標には、金融控社の商標のほか、証券社の商標も含まれており、商標に取り消すべき事由があるかどうかについて、異なる判断をしてはならず、合一に確定する必要があるとしました。
証券社の主張について、知的財産裁判所の複数の裁判官が審理したあと、2016年の末に判決・決定が下されました。その判決・決定の理由は、概ね三つの見解に分けられました。
一つ目の見解では、証券社の起訴が行政訴訟法第5条「義務付け訴訟」の要件に合致しないため、その起訴は合法的でなく、決定で却下すべきというものでした。
二つ目の見解は、証券社は引用商標の商標権者として例外的に合法的に訴訟を提起することができるものの、台湾の商標法第48条第1項では何人でも異議申立を提起できると規定しており、証券社はもとより自ら異議申立を提起することができるため、金融控社の異議申立と共に合一に確定する必要がなく、その当事者適格が認められず、その訴えを棄却すべきであるというものでした。
そして、三つ目の見解は、証券社と金融控社の異議申立は合一に確定すべきであり、証券社の起訴は合法的であるほか、当事者適格が認められるというものでした。
証券社の起訴が合法的であるかどうか、そして当事者適格があるかどうかについて、この三つの見解はそれぞれ異なりますが、どの見解を採用した裁判官も保全社と租賃社の商標に登録を取り消すべき事由があるとは認めておらず、金融控社と証券社が起こした一連の「日盛」商標に関する訴訟の判決は、いずれも知的財産局の処分を維持する形となり、金融控社と証券社は一審に敗訴を喫しました。
敗訴の結果を受け、証券社と金融控社は台湾の最高行政裁判所に上告しました。最高行政裁判所は、これを機に2017年の末にこの事件の関連訴訟の起訴が、合法的であるかどうか、そして当事者適格があるかどうかについて、統一的な見解を示しました。
最高行政裁判所は、上述の一つ目の見解を採用し、即ち、行政訴訟法第5条に定める義務付け訴訟の提起に一定の法律要件があり、証券社は当初異議申立を提起した者でなく、訴願手続の当事者でもない以上、法律により行政訴訟を提起することができないとしました。そして、その訴訟が合一に確定しなければならないものではないことから、証券社に例外的に起訴の資格を与える必要もないとしました。
結果的に最高行政裁判所は、行政訴訟法第107条第1項第10号の規定により、証券社の上告を却下しました。一方、知的財産裁判所が二つ目と三つ目の見解に基づいて訴えを棄却した判決についても、最高行政裁判所は、“決定”の方式より慎重な“判決”という形でその訴えを棄却したことを理由に、それらを取り消す必要はないとして知的財産裁判所の判決を維持しました。
これにて引用商標の商標権者が異議申立と訴願の手続の当事者でない場合、直接義務付け訴訟を提起できるかどうか、及び当事者適格があるかどうかという争議は一段落しました。
実際に、台湾における代理店がその代理する外国企業の商標を引用商標として他人の商標に対し異議申立を提起することは少なくありません。前記の事件のように、企業グループの主要な会社が、その企業グループ傘下の他会社の商標を引用商標として、他人の商標に対し異議申立を提起するケースもよく見られます。
最高行政裁判所が「引用商標の商標権者が当初異議申立を提起した者でなければ、直接義務付け訴訟を提起することができない」という結論を示した現状では、もし商標権者が知らないうちに商標権者所有の商標を引用商標として他人に異議申立を提起された場合、商標権者はその後の行政訴訟に携わることができなくなります。更に、異議申立人がその行政訴訟で敗訴すれば、自社の商標が他社の商標と並存することで希釈化・弱体化されるというような好ましくないリスクを負うこととなります。
このため、ブランドを有する業者であれ、企業グループにおいて商標を所有する会社であれ、知財の専門家グループに自社の商標の状態を随時監視させる上で、知的財産の布石、権利保護するための戦略の策定・行動について、代理店又は同一の企業グループにおける他会社とよく連携を図ることが望ましいと思われます。