スパイ映画『007』の知名度の高さは周知の通りであるが、「007」は著名商標と言えるだろうか。
もしも、著名商標であるとしたら、その領域や保護を受ける範囲はどの程度なのか。また、「007」の映画における高い知名度を以って、映画以外の商品を指定する他人の商標登録も排除できるのだろうか。
上記の問題に対し、2000年、台北高等行政裁判所は以下の判決を下した。
本件は、腕時計等の商品を指定した品天下実業有限公司(以下、「品天下社」とする)の商標「阿松雙子星Piin Tian Shiah
」に対し、アメリカ企業Danjaq LLC(以下、「Danjaq社」とする)が異議を申立てたものである(事件番号:89年訴字第1957号)。Danjaq社は、当該商標が同社所有の著名な「007」、「
」等の商標と近似し、混同誤認を招来するため、登録を受けるべきではないと主張した。これに対し台北高等行政裁判所は、“著名性は国内消費者の認知度によって判断されるが、Danjaq社が使用権を許諾している007シリーズの商品は、台湾で広く生産販売されているわけではなく、海外の知名度は国内に及ばないため、「007」、「
」を著名商標と認めることはできない。また、映画と時計の販売ルートも同一ではなく、公衆が混同誤認を生じる虞はない”と判断した。
上記の見解に続いて、知的財産局及び訴願審議委員会は、Danjaq社がその後に行った多数の異議申立案に対しても、一貫して007商標の知名度は映画・ビデオテープの商品に限られ、映画・ビデオテープ以外の商品又は役務を指定した他人の登録商標は排除できないとした。しかし、2009年12月、Danjaq社が提起した行政訴訟(事件番号:98年行商訴字第147号)により、この見解が覆された。
本件は、品天下社が腕時計・時計を指定商品として登録出願した商標「
」に対し、Danjaq社が異議を申立てたものである。知的財産局及び訴願審議委員会にはその主張が受け入れられなかったため、Danjaq社は行政訴訟を提起した。知的財産裁判所の見解は以下の通りである。
係争商標
根拠商標
1. 根拠商標は著名商標である。
根拠商標を映画・ビデオテープ等の商品に使用した場合の知名度は極めて高く、この点については知的財産局も否定していない。このため、映画・ビデオテープ以外の商品や役務に根拠商標を使用した場合も、他の商標を使用するより速く著名性を獲得・蓄積することができる。また、Danjaq社から提出された「007」を時計に使用した多くの国内外の資料を考量に入れると、根拠商標が映画・ビデオテープだけでなく、時計に使用されていても台湾の消費者に著名商標であると認識されていると認めることができる。
2. 根拠商標は時計を指定商品とする他人の登録商標を排除することができる。
(1) 裁判所の見解:
a. 両商標の類似度が高い。
b. 台湾で「007」又はピストルと結合させた図を商標図案とし、実際に使用して係争商標と併存している商標は多くない。このため、根拠商標が識別力の弱い商標であるとは認め難い。
c. 台湾で根拠商標は時計商品においてもよく知られており、係争商標も時計を指定商品としている。両者の性質、機能、販売ルートはいずれも同一である。
d. 両商標に対する関連消費者の周知度をみてみると、係争商標はそれほど消費者に知られているわけではない。一方、根拠商標は台湾で既に一般に知られているため、より広範囲の保護を与えるべきである。
e. 品天下社はかつて警告状を発送し、Danjaq社の使用権許諾により製造された007腕時計が係争商標の商標権を侵害すると主張している。これにより、品天下社も両商標が実際に混同を起こす状況にあることを認めていたと言える。
(2) 判決:
知的財産裁判所は、知的財産局及び経済部の決定を取消し、係争商標が著名な根拠商標と類似しており、関連公衆に混同誤認を招来するため登録できないという処分を下した。そして、知的財産局に係争商標の登録の取消を命じた。
著名商標である「007」商標の保護において、本件は大きな勝利を収めたことになる。一方、品天下社はその後最高行政裁判所に上訴したので、進展について引き続き注意を払っていく必要がある。