2017年10月に台湾の行政院(内閣)は著作権法の改正案を可決し、立法院(国会)に提出した。今回の法改正について、台湾の知的財産局(以下、知財局という)は2010年から法改正の諮問会議を開催し、2014年に改正案の初稿を作成した。知財局が数回にわたって公聴会を開きつつ内容を修正した結果、今回立法院に提出した改正案に至った。今回の改正案の条文は145条あり、修正された条文が93条あり、新たに加えられた条文は17条あり、修正が加えられた条文は全ての条文の8割に及んだ。
先ず、今回の改正案では、各種の新しい情報の伝達手段の発達に応じて、著作権法上の概念の再定義が行われた。例えば、台湾の著作権法においては「公開放送」と「公開伝送」という概念があり、現行法では、前者はテレビ局又はラジオ局による情報伝達を指し、後者はインターネットを通じる情報伝達を指す。一方、改正案では、「公開放送」又は「公開伝送」に属するかを、同期に情報を受け取るかどうかにより決める。即ち、同期に情報を受け取る場合は公開放送となり、非同期に情報を受け取る場合は公開伝送になる。従って、今回の改正案によれば、YouTube(ユーチューブ)で生のウェブ放送をすることは、インターネットによる情報伝達でありながら、公開放送に属する。
なお、改正案では、公衆の出入りする場所にテレビ、ラジオ、スクリーン、拡声設備等を設置して、テレビ番組若しくはラジオ番組を流し、又はパソコンを設置してYouTubeのビデオを再生する行為を、「再公開伝達」とし、別段の規定がある場合を除き、如何なる著作物の著作者でもその著作物を再公開伝達する権利を有する。この再公開伝達の概念と関連して、飲食店等でテレビを付けっ放しにする行為が著作権侵害となるかどうかについて、現行実務の見解では著作権侵害とならないとしてきた。今回の改正案は上記の実務見解の趣旨に同調する。具体的に言えば、改正案によれば、飲食店等で公開放送される映像信号を受信した後、テレビを付けっ放しにするのみで、ケーブル若しくは他の器材で映像信号を分岐させて他の受信設備に伝送しない場合、著作物の公正使用に該当し、著作権侵害とならない(但し、映像信号が公開伝送されるものである場合は公正使用に該当しない)。一方、例えば、セットトップボックスで映像信号を受信したあと、それを分岐させて壁に掛けてある複数のテレビに伝送し、又は複数の個室に設置されるテレビに伝送する場合、公正使用に該当しない。
また、今回の改正案に遠隔教育に関する公正使用の規定が加えられ、遠隔教育の形態により複数の公正使用の形態に分けられる。例えば、学校又は教師が教育の目的を達成する必要な範囲内で学内のネットワークを通じて他人の著作物を学校に在籍する学生に伝送する場合は、公正使用に該当する。一方、学校又は教師が教育の目的を達成する必要な範囲内で学外者もアクセスできるネットワークで著作物を公開放送、公開伝送することができるが、営利を目的としてはならないほか、著作者に合理的な報酬を支払う必要がある。
さらに、非営利活動における公正使用について、今回の改正案では経常的な活動又は非経常的な活動に応じて各々の規定が設けられる。経常的な非営利活動の場合、例えば劇団が定期的に慈善興行で音楽を放送する場合、著作権者に使用報酬を支払う上でその音楽著作物を放送することができる。一方、非経常的な非営利活動の場合、例えば地震災害義捐金を募集する慈善興行で映画を上映する場合は、直接公正使用に基づきその映画を利用することができるが、双方の利益のバランスを保つために、その上映される映画は公開上映してから3年満了したものではなければならない。そして、改正案では、公正使用の公益性要件が設けられ、即ち、経常的でありながら社会支援、公共安全、公共衛生、心身の健康に係る活動の場合(例えば台湾によく見られる、市民が早朝に公園に集まり音楽を流しながらダンス、体操をする場合)、例外的に直接公正使用に基づき著作物を利用することができる。
そして、実演者の権利について、改正案では、実演者がその実演が複製された録画若しくはDVD等の視聴覚著作物の散布(所有権の譲渡若しくは賃貸借)と公開伝送の権利が設けられた。それと同時に、後続の利用を妨げないために、法定譲渡の条項が規定され、即ち、実演者が出資者の招聘を受け有償で実演し、視聴覚著作物として録画、録音されることに同意すれば、契約において別段の約定がある場合を除き、実演家の上記の権利は出資者に譲渡されることとなる。
また、現行法では、著作権侵害訴訟において、著作権者が容易にその実際の損害額を証明できない場合、侵害の情状により一万台湾ドル以上、百万台湾ドル以下の損害額を定めるよう裁判所に請求することができるが、特筆すべき点として、改正案では、上記の「容易にその実際の損害額を証明できない場合」という条件が削除され、著作権者の立証責任が軽減される。
今回の改正案が立法院に可決されれば、著作物の利用の態様に様々な影響を及ぼすと思われる。例えば、国内外の学校若しくは教育機構がより積極的に学外者もアクセスできるネットワークで他人の著作物を伝送することが予想される。なお、非営利活動における著作物の公正使用の権利が認められながら、著作権者の権益も保護され、著作権者と利用者との間の緊張関係をある程度緩和することができる。また、著作権法に刑罰の規定が設けられている現状では、民事訴訟における著作権者の立証責任が軽減される場合、著作権者はより迅速に損害賠償を獲得することができるほか、著作権者は民事訴訟で著作権の争議を解決することにより前向きとなり、利用者が刑事告訴を提起されることが少なくなるものと予想される。