台湾においては、医薬品特許を対象とした、特許権存続期間の延長による保護制度(特許権存続期間延長制度)が設けられている。延長が認められた場合、その延長期間における特許権の効力範囲は、医薬品許可証に記載された「有効成分」及び「用途」によって特定された範囲にのみ及ぶ。このため、延長登録の可否を判断する審査においては、医薬品許可証に記載された有効成分が、延長を求める特許請求の範囲(クレーム)の記載内容に含まれるか否かが、重要な審査要件の一つとなる。2026年6月、台湾最高行政裁判所は113(2024)年度上字第394号判決を言い渡し、有効成分と化合物請求項との関係性について明確な判断を示した。
台湾専利法によれば、特許権存続期間延長登録出願に用いる医薬品許可証は、最初の医薬品許可証(第一回許可証)でなければならない。すなわち、有効成分又は用途のいずれかが新規(これまでに承認されていないもの)である必要がある。有効成分が最初の医薬品承認に該当するか否かを判断するにあたり、2018年に改定された「特許権存続期間延長審査基準」では、従来の審査基準における、有効成分とは、薬理作用を有する化合物のフリー体(free form)を指すとの見解が、許可証に記載された有効成分そのものを基準とすることと明確に改められた。同基準に基づくと、有効成分が特許請求の範囲に含まれるか否かを判断するにあたっては、第一回医薬品許可証の処方欄に記載された有効成分そのものを基準とすべきであり、医薬品中の薬理作用を有する部分(フリー体)を基準とするものではないとされている。
本件における争点の核心は、特許権存続期間の延長登録出願に係る医薬品許可証に記載された有効成分が、特許請求の範囲に含まれるか否かという点であった。本件特許の化合物請求項の対象は、「特定の一般式を有する化合物又はその薬学的に許容される塩」であり、当該化合物の溶媒和物又は水和物については記載されていなかった。これに対し、本件係争医薬品許可証の処方欄には、有効成分として「Upadacitinib Hemihydrate(ウパダシチニブ半水和物)」、すなわち「半水和物」であることが明確に記載されていた。
上訴人はまず、専利法自体が改正されていない以上、2018年改定の「特許権存続期間延長審査基準」が、有効成分の認定を「医薬品許可証の記載内容」に基づくとしたことは、法律に定めのない制限を付加するものであると主張した。これに対し、最高行政裁判所は、同主張を認めず、当該審査基準の改定は、第一回医薬品許可証に記載された有効成分と特許権の範囲を十分にかつ厳格に対応させることを目的としたものであるとの判断を示した。本件係争医薬品許可証の処方欄には、有効成分として、「Upadacitinib Hemihydrate(ウパダシチニブ半水和物)」と明記されていた。同処方欄には、「Corresponds to upadacitinib 15mg on an anhydrous basis(無水物換算でウパダシチニブ15mgに相当)」との括弧書きでの注記があるものの、これは当該医薬品に含まれる薬理活性部位の含量を示すものにすぎず、その有効成分が本質的に半水和物であるという事実に影響を与えるものではないとされた。したがって、本件において基準とすべき有効成分は「ウパダシチニブ半水和物」であると認められ、当該審査基準は法律に定めのない制限を付加したものではないとされた。
本件において、より議論の余地があるとされたもう一つの問題は、本件係争特許の請求項が「半水和物」を包含するか否かという点であった。本件の登録化合物請求項には、対象となる化合物の溶媒和物又は水和物が文言上明示されていなかった。仮に、請求項8がウパダシチニブ化合物それ自体を請求しているとしても、その化学構造には0.5分子の水分子が含まれていないことから、裁判所は、本件係争請求項は「無水ウパダシチニブ又は無水ウパダシチニブの薬学的に許容される塩」としか解釈できないと認定した。
本件係争特許の明細書には、「特定の化合物及びその塩は、例えば水和物のような溶媒和物の形態でも存在し得る」との総括的な言及はあったものの、明細書には、開示された多数の化合物のうち、具体的にどの化合物が水和物として存在し得るのかについての個別具体的な特定はなく、また、水和物の製造例も一切示されていなかった。このため、当業者であっても、実験を行うことなく当該化合物が水和物を形成し得ることを直ちに推知することはできないとして、裁判所は、本件係争特許の請求項は半水和物を包含しないものであると判断した。
上訴人はさらに、次のように抗弁した。(1)仮に水和物が化合物又は他の水和物と品質、安全性及び有効性において同等であるならば、当該水和物は当該化合物と同一の有効成分とみなされるべきであり、薬事上は「後発医薬品(ジェネリック医薬品)」としての許可証しか取得できず、「新薬」としての第一回医薬品許可証を取得することは不可能である。(2)また、既に化合物について特許が取得されている場合、その後、さらにその水和物として水和物特許を取得することはできない。
しかし、裁判所はいずれの主張をも退けた。まず、前者(1)について、裁判所は、専利法にいう「第一回医薬品許可証」に該当するか否かは、当該許可証が新薬に係るものか、あるいは後発医薬品に係るものかという(薬事上の)分類を判断の根拠とするものではないと指摘した。また、後者(2)の既知の化合物の水和物形態が特許性を有するか否かについては、通常の特許要件(新規性・進歩性等)に基づいて判断されるべきであり、出願人が十分な理由及び証拠を提出した場合には、既知化合物の水和物であっても特許が認められる可能性は依然として存在するとの見解を示した。
さらに、最高行政裁判所は判決において、化合物とその化合物の水和物とは上位概念・下位概念の関係にあり、水和物も当然に請求項の範囲に含まれるべきであるとする上訴人の主張を退けた。裁判所は、水和物における水分子とフリー体化合物は、分子間力(水素結合など)の化学的結合によって一定の割合で結合している点を示した。水和物は、水分子とフリー体化合物との化学的結合体であり、遊離形態の化合物とは異なる物質である。したがって、化合物とその化合物の水和物の二者は、上位概念・下位概念の関係にはなく、請求項において単に「化合物」と定義されている場合には、結晶水を含まないフリー体化合物を意味するものと解釈すべきであり、その水和物形態までは含まれないと認定した。
今回の台湾最高行政裁判所の判決は、台湾知的財産局(TIPO)が2018年に改定した「特許権存続期間延長審査基準」における「有効成分」の定義を支持・明確化するとともに、有効成分が特定の化合物半水和物である場合、当該化合物及びその塩類のみを対象とする特許請求の範囲には包含されないことを明確にした。
本判決は、今後の医薬品特許における化合物請求項の記載方法及び出願戦略に重大な影響を及ぼすものである。将来的に化合物について適切な保護を確保するためには、当該化合物について溶媒和物又は水和物が想定される場合、それらを請求項の対象の文言に明示的に規定しておくことが必要であり、それらを含めて権利化しておくことが重要である。