台湾の知的財産及び商事裁判所は最近、商標パロディに関する判決(113年度民商訴字第18号。以下、「本件訴訟」という)を下した。この判決は、台湾の国民的スナック菓子「乖乖(グアイグアイ)」に関するものである。「乖乖」は1969年から販売されている子ども向けのスナックであり、中国語で「乖乖」には「お利口さん」「いい子にしてて」という意味がある。ほとんどの台湾国民が子供の頃、「乖乖」を食べたことがあるため、懐かしい子供時代を連想させるスナック菓子となっている。なお、長年愛されてきたロングセラー商品であるため、もはや単なる菓子の領域を超え、ある種の文化的シンボルとなっている。最も顕著な例として、工場、政府機関、病院、銀行等広範囲にわたる職場で働く台湾のエンジニアの間では、管理下にあるサーバーなどの機器がいい子のようにトラブルを起こさず正常に稼働することを祈るため、機器の傍や内部に緑色の包装の「乖乖」を置くという風習があるほど、「乖乖」のもつ神秘的な力が広く信じられている。他色の包装の「乖乖」もあるが、機器の傍や内部に置かれるのは、緑色の包装の「乖乖」でなければならないとされている。
本件の原告である KUAI KUAI CO., LTD.(以下「原告」という)は、自社のスナックブランド「乖乖」に関し、複数の「乖乖」商標(以下、本件商標と称する)を保有している。原告は、被告ら(被告 A 社および被告 B社)が2022年に、原告の「乖乖」製品と外観が極めて類似した猫用おもちゃを設計、製造および販売し、その外装に原告の商標に類似する「ミャーオ乖乖」(以下「侵害品」という)を付していたと主張した。さらに原告は、問題となっている商品がペットフードであるかペット玩具であるかにかかわらず、原告の登録商標「乖乖」の指定商品と同一または類似であり、消費者に混同を生じさせるおそれがあるため、商標法第68条第3項に定める商標権侵害に該当すると主張した。また、「乖乖」は著名商標であるため、被告らの故意による模倣行為は同商標の識別力を低下させるものであり、商標法第70条第1項に定める商標権侵害にも該当すると主張した。したがって、原告は、被告 A 社、被告 B 社およびそれぞれの責任者に対し、連帯して損害を賠償することを求める訴訟を提起した。

原告の主張に対し、被告らは複数の抗弁を展開したが、その一つが商標パロディの抗弁であった。被告らは、侵害品のデザインについて、子供時代の思い出のスナック菓子「乖乖」のパッケージを連想させるものであり、ユーモアと創意工夫の表現手法を通じて、子供の頃の楽しさやユーモアを表現しようとしたにすぎず、他社の商標を自社製品の出所表示として使用する意図はなかったと主張した。
このパロディの抗弁に関して、裁判所はその判決において、商標がパロディとみなされ法律で保護されるためには、以下の5つの要件を満たす必要があると指摘した。
- ユーモア、風刺、批判を表現する娯楽性を有し、同時に正反対のメッセージを伝えていること。
- 消費者がパロディ商標に接した際に、直ちに著名商標を連想すること。
- 2つの商標は十分に乖離しており、消費者が混同誤認するおそれがなく明確に区別できること。
- 表現の自由について厳格な審査を受けた結果、商標権を制限し、表現の自由を守ることで公共利益を達成する必要性が認められること。
- 著名商標の不適切な使用はなく、その識別力や信頼性・評判を損なう恐れもないこと。
上記1および4の点に関して、裁判所はさらに、商標のパロディは言論の自由、芸術の自由、および表現の自由の尊重に基づく、商標権に対する合理的な制限であると述べた。しかしながら、商標法を制定した目的は、商標権および消費者の利益を保護し、公正な市場競争を維持し、商工業の正常な発展を促進することにある。さらに、商標権は、商標権者の利益と消費者による混同誤認を回避するという公共の利益に関わっている。したがって、「商標パロディ」が認められるためには、著名商標を模倣する商標は、ユーモア、風刺、または批判を表現し、正反対のメッセージを伝えるものでなければならず、「混同を回避するという公共の利益」と「表現の自由という公共の利益」とのバランスが取れていなければならない、と裁判所は本件訴訟の判決で強調している。
以上の基準に基づき、裁判所は、被告らが使用していた「ミャーオ乖乖」と、本件商標の「乖乖」との相違は「ミャーオ」のみであり、意味も似通うため、一般消費者が前者を後者の猫バージョンであると誤解する可能性があり、混同誤認の危険性があると判断した。さらに、被告らによる本件商標の使用は、公共の利益のためではなく、被告自身の商業的利益のためであるため、被告の表現の自由の保護は、原告の商標権の保護よりも優先されるべきではないとした。結論として、裁判所は、被告らの行為は商標パロディの要件を満たしておらず、したがって、パロディを理由として商標権侵害の責任を免れることはできないと判断した。
裁判所が示した審査基準を見ると、実際に商標パロディを主張して勝訴できる範囲は非常に限られていることがわかる。まず、要件2は「消費者がパロディ商標に接した際に、直ちに著名商標を連想すること」を要求する一方、要件3は「2つの商標は十分に乖離しており、消費者が混同誤認するおそれがなく明確に区別できること」を要求する。これは、行為者が作製した商標が著名商標に類似するため、著名商標を「模倣」する意図を消費者が即座に認識できることを要求すると同時に、パロディ商標は著名商標と過度に類似してはならず、そうでなければすぐに混同誤認に陥るおそれがある。これら2つの基準は本質的に調和し難く、実務において適切に把握することは極めて困難である。
さらに、商業活動において、企業が特定の言葉や画像を商標として使用するのは、主に自社の商業的利益のためであり、公共の利益に基づく表現の自由を行使するためではない。もし、「その行為が自社の商業的利益のためであれば、商標パロディは成立しない」とされると、商標パロディを主張できる余地は間違いなくさらに狭まると思われる。
裁判所が示した審査基準が厳格であるため、訴訟で商標パロディを成立させることは甚だ困難である。一方、事業者がユーモア、風刺、または批判を目的として商標パロディを行う意図が確実にある場合、商標権侵害のリスクを効果的に低減するためには、以下の点を慎重に検討する必要があると思われる。
- 連想できる範囲内で著名商標との類似性を最小限に抑える
ここでは、米国連邦裁判所における商標パロディに関する代表的な事例、「Louis Vuitton Malletier S.A. v. Haute Diggity Dog, L.L.C.」(以下「Chewy Vuiton事件」と称する)を参照できると思われる。この事件では、被告は安価な犬用噛むおもちゃを製造し、おもちゃの外観がルイ・ヴィトン(LV)のハンドバッグに類似したのみならず、おもちゃに「Chewy Vuiton」という商標が使用されていた。被告はルイ・ヴィトンの商標権者から商標権侵害で訴えられたが、最終的に裁判所は侵害はなかったとの判決を下した。被告の商標パロディの主張が認められた根拠は、被告が使用した最初の単語「Chewy」が原告の商標の「Louis」と異なり、2番目の単語「Vuiton」も原告の商標の「Vuitton」と異なっていた点である。さらに、被告の製品のデザインは細部に欠けた粗雑なものに過ぎなかった。
- 市場セグメンテーションと価格の面で、自社製品と著名商標の製品との間に顕著な違いがあることを確保する
Chewy Vuittonの事例では、被告の製品はペット用品店で販売される安価な商品であったのに対し、原告の製品は高級ブランド店で販売される高価で洗練された商品であった。市場における位置付けと価格の大きな違いが、消費者の混同誤認の可能性を大幅に低減した。
- 単なる模倣や剽窃を超え、真に風刺、批判、あるいは文化的な省察を表現する
Chewy Vuiton事件では、被告の製品は高級ブランド品が呈する現代の文化現象に対する風刺や嘲笑であると解釈できる可能性がある(富裕層は自分へのご褒美としてルイ・ヴィトンを買うが、私は犬に噛ませるためにChewy Vuitonを買う)。
最後に、理論的には、上記の要素を総合的に評価することで商標パロディに関わる訴訟の勝訴率を高めることができるかもしれないが、台湾の司法実務で採用されている厳格な基準や過去の事例を考慮すると、商標パロディを行うことは依然として重大な法的リスクを伴う。慎重に行うべきであることはもちろん、法律の専門家に事前に相談する必要があると思われる。