台湾専利法第23条は、「拡大先願」につき、「専利出願に係る発明が、当該専利出願日の前に出願され、当該専利出願の後に公開又は公告された発明専利(特許)もしくは新型専利(実用新案)の出願の願書に添付された明細書、専利請求の範囲、又は図面に記載された内容と同一である場合、発明専利を受けることができない。ただし、当該出願人と当該出願日の前の発明専利出願又は実用新案出願の出願人とが同一の者であるときは、この限りでない」と規定している。台湾専利審査基準における「拡大先願」の審査は、出願の各請求項の技術的内容を先行出願と比較し、その内容が「同一」であるか否かを判断することに基づいている。なお、「同一」とは、(1)完全に同一であること、(2)記載の形式のみが異なり、又は直接的且つ一義的に導き出せる技術的特徴、(3)対応する技術的特徴の上位概念または下位概念のみが異なること、(4)通常の知識に基づいて直接的な置換が可能な技術的特徴のみが異なることを指す。上記(1)~(3)は新規性審査における「同一内容」の判定基準と一致する一方、(4)は「拡大先願」の判断に特有の基準である。過去の実務では、如何に「直接的な置換」という基準を適用すべきか、および如何に進歩性の判断と区別すべきかについて意見が分かれていた。この点に関して、「拡大先願」に関する最高行政裁判所が2026年3月12日に下した114年度上字第577号判決(以下、本件判決と称する)が参考に値する。
本件判決の焦点となった専利(以下、本件専利と称する)は、キノコ栽培バッグの開口部を密閉するためのキャップに関するものである。このキャップは、通気シート、本体、底壁などの構成要素を含む。本件専利の記載によると、通気シートが本体上部に接着されることでキャップ中央の貫通孔を密閉し、本体の底面側壁には、底壁と接続する穴が設けられ、通気シートと貫通孔から側壁の穴まで水と空気の通路を形成する。これは、栽培バッグ内の培養基を湿潤状態に保ち、側壁の穴が培養基で塞がれるのを防ぐためのものである。そして、本件専利が先行出願(TW M562560)により新規性を喪失したという無効審判の請求人の主張に対し、専利権者は、先行出願と本件専利の間には技術的特徴の相違があり、例えば、先行出願ではカバーの側壁の穴は底壁に接続されておらず、通気シートは接着されるのではなく、カバーの底面の上に置かれているだけであり、そして、これらの相違は、当業者による直接的な置換が可能な技術的特徴ではないと主張した。しかし、知的財産局と訴願審議委員会はともに、これらの相違は直接的な置換が可能な技術であると判断し、先行出願によって本件専利の新規性が失われると判断した。専利権者はこれを不服として、知的財産及び商事裁判所に行政訴訟を提起した。これについて、知的財産及び商事裁判所は、114年度行専訴字第1号判決において、専利明細書及び専利請求の範囲に基づけば、当業者が本件専利のこれら2つの技術的特徴の機能が「通気孔の通気性を維持すること」及び「通気シートをカバーに接合すること」であると認識でき、先行出願において異なる技術的特徴も同一の機能を有し、したがって、これらの技術的特徴は、通常の知識に基づいて直接的な置換が可能な技術的特徴であると判断した。専利権者は、同裁判所の「通常の知識に基づいて直接的な置換が可能」という判断が実質的に進歩性を判断する際の判断原則であるとして不服を唱えたほか、知的財産及び商事裁判所の判決に法令適用の誤りがあるとして、最高行政裁判所に上告した。
最高行政裁判所は本件判決において、「拡大先願」の規定が、新規性が否定される状況の範囲を拡大するものであると指摘した。即ち本来の新規性の有無に関わる判断原則に加えて、もし後願と先行出願との技術的特徴の相違が、当業者が通常の知識と普通の技術に基づいて直接的な置換を行える場合、後願が新規性を欠くものとみなされる。特に、異なる技術的特徴が「直接的な置換が可能」であるか否かを判断するにあたっては、置換前後の技術的特徴が通常の知識に基づいて「同一の機能」を有するか否かを考慮しなければならない。さらに、最高行政裁判所は、「直接的な置換」という要件は、個々に置換された技術的特徴の機能の違いを考慮するものであり、置換前後の全体的な技術的手段が同一の効果を生み出すか否かを考慮する進歩性審査の要件とは異なると強調した。したがって、本件専利の専利権者が主張したような、拡大先願の判断において、進歩性判断の要件を不当に導入したという懸念は当たらないとした。上記に基づき、最高行政裁判所は、本件専利と先行出願の異なる技術的特徴が同一の機能を有し、かつ通常の知識に基づいて直接的な置換が可能であることを当業者が認識できるとした知的財産及び商事裁判所の判断理由に誤りはないとし、本件専利は新規性が喪失しているとの結論を維持した。
この最高行政裁判所の判決は、専利と先行出願の異なる技術的特徴が通常の知識に基づいて直接的な置換が可能であるか否かを判断する際には、置換前後の技術的手段の全体が同一の機能を生み出すか否かではなく、あくまで異なる技術的特徴が置換前後で同一の機能を有するか否かを考慮すべきであることを示している。知的財産及び商事裁判所は、過去の民事訴訟(例えば111年度民専上字第19号判決)および行政訴訟(例えば113年度行専訴字第17号判決)においても類似する見解を示している。特に、拡大先願に基づいて主張する無効審判の請求人や民事訴訟の被告にとって、本件判決における最高行政裁判所の見解は、適切な先行出願を検索・選定したり、関連する主張を組み立てたりする際の有用な指針となり得る。
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