特許の保護において、製法特許は常に特許戦略上の重要な一端を担っている。
製法特許の侵害認定について、2025年12月における知的財産及び商事裁判所の114年度(2025年度)民專訴字第15号判決は、抗がん剤 カルフィルゾミブ(Carfilzomib、以下『薬物a』)の侵害認定を巡り、特許技術の核心となる相対的な用語の解釈や、製法特許の侵害認定について、示唆に富む事例を提供している。
本判決の原告は先発医薬品メーカーであり、当該特許医薬品について「衛部藥輸字第027490号」の許可証を取得し、特許連結(パテント・リンケージ)の登録を行っている。このため、当該許可証には本件特許I603737が連結されていた。
一方、被告はジェネリック医薬品メーカーであり、ジェネリック医薬品の承認申請を行うとともに、上記特許に対して「P4主張(Paragraph IV certification)」を行い、当該特許が無効であるか、又は当該ジェネリック医薬品が特許を侵害していないと主張した。
本件の核心となる争点は、「被告のジェネリック医薬品の製造方法の変更によって、製法特許の請求項1を回避できるか」、および「その生成物が製法限定物(Product-by-Process, PBP)の請求項23の範囲に属するか」である。
一、 本件特許における請求項の内容と技術の重点:「低塩化物」が求められる理由
本件特許の請求項1は、以下の通りである。
低塩化物の医薬組成物を調製する方法であって、
(i)(a)化合物:
又は薬学的に許容可能なその塩;
(b)低塩化物シクロデキストリン(「CD」);及び
(c)水 ;
を含む第一の組合せであって、
前記第一の組合せが不均質であり、前記化合物又は塩が前記第一の組合せ中で低い可溶性を有する、第一の組合せを提供するステップと、
(ii)前記第一の組合せを酸に接触させて第二の組合せを形成させるステップであって、前記化合物が、前記第一の組合せ中よりも、前記第二の組合せ中の方が可溶性である、ステップと、を含む方法。
また、もう一つの独立請求項である請求項23 の対象は、請求項1 の方法により製造される医薬組成物(製法限定物:PBP)である。
この技術のポイントは、主として「低塩化物」にある。
薬物aはペプチドプロテアソーム阻害剤であり、その構造中のエポキシ基(epoxide)は非常に感受性が高いものである。
本件特許では、製造環境に過剰な塩化物イオンが存在すると、求核攻撃が引き起こされ、FDAが遺伝毒性を有するとみなす不純物である「クロロヒドリン付加体が生成されることが発見されている。その毒性不純物を低減し、薬物の安定性を高めるため、本件特許は「低塩化物CD」を使用し、特定の錯体形成ステップを通じて薬物の溶解度を投与可能なレベルまで向上させるものである。
二、 「低塩化物」の数値解釈
訴訟において、双方は請求項1中の「低塩化物CD」における「低塩化物」の意味について争っている。「低」は相対的な形容詞であるため、裁判所は内部証拠と出願履歴をもとに、この相対的形容詞に対して具体的な数値による定義を与えた。
- 内部証拠: 裁判所は、「低」は相対的な形容詞であり、その範囲を明確にするには明細書を参照する必要があると指摘した。明細書の表3によれば、塩化物含有量0.05% (w/v)でもCDPは生成されるが、0.2%の塩化物含有量と比べると、その生成濃度は「許容される低濃度」であった。
- 出願履歴(禁反言): 特許権者は出願過程において、進歩性の拒絶理由を克服するために、「本願で定義される『低塩化物』とは、塩化物イオン含有量が0.05%以下であることを指す」と明確に主張していた。
- 最終的な解釈: 裁判所は「低塩化物CD」を「塩化ナトリウム含有量が0.05% w/w 以下のCD」と解釈した。
三、 製法の対比:特許技術 vs. 被疑侵害製品技術
被告(ジェネリック医薬品メーカー)は、自社の製造工程が特許で定義されたステップの順序と異なると主張した。両者の製造工程(調製フロー)は以下の通りである。
【本件特許請求項1の調製フロー】

【被告ジェネリック医薬品の調製フロー】

裁判所は、被告が使用したCDの塩化ナトリウム含有量は0.03%未満であり、「低塩化物CD」に該当すると認定した。
四、 侵害の判定
- 被告の製法は、特許製法の「文言侵害」に該当しない。
被告の製法ステップ(I)では、CDが酸(クエン酸)と混合されるが、薬物(a)は加えられていない。このため、本件特許請求項1のステップ(i):「薬物(a)、低塩化物CD、および水を含む第一の組合せの提供」の文言を満たしていない。
被告の製法ステップ(II)で薬物(a)を加えた後は、第一の組合せ(薬物を含む)と酸が接触して、第二の組合せが形成されることになる。
これにより、裁判所は、ステップ(ii)で規定された内容については、請求項の文言を満たしていると認めたが、被告の製法はステップ(I)の文言を満たしていないため、請求項1に対する文言侵害は成立しないと認定した。
- 被告の製法は、製法特許の「均等侵害」を構成
裁判所は、上記の解釈に基づき、被告の製法と本件特許の製法との相違が、薬物(a)を添加するタイミングのみにあると認定した。そこで、次に 「三段階テスト(Tripartite Test)」 および 「実質的差異の有無のテスト」 を行い、均等侵害が成立するか否かを判断した。
「三段階テスト(Tripartite Test)」
- 方式(Way)が実質的に同一:両者の差異は、薬物(a)の添加時期のみである。共に低塩化物CDを使用していることで、薬物(a)の分解による潜在的な遺伝毒性不純物の生成を回避し、安定性を高めることができる。順序の変更は、低塩化物CDの使用という機能と結果に影響を与えず、係争後発医薬品の製造方法において実際に生じる錯体形成反応時間は、係争特許方法における数時間から1日程度継続する錯体形成反応時間と同程度である。このため、この手順の順序変更は、当業者にとって「簡単な変更であり、自明なもの」であり、実質的に同一の方式である。
- 機能(Function)が実質的に同一: いずれもCD錯体形成法を利用して薬物(a)の溶解度を向上させ、CDPの生成を最小化するものである。
- 結果(Result)が実質的に同一: いずれも最終的に安定で高溶解度の低塩化物医薬組成物を得ている。
「実質的差異の有無のテスト」
系争特許の請求項1の工程(i)において、大部分の未溶解の薬物(a)は酸と接触してはじめて溶解形態に変化し、錯体形成反応に関与する。したがって、薬物(a)の添加時期がいつであっても、両者の錯体形成反応は、主として「薬物(a)、水、低塩化物CD、および酸」が同時に存在する条件下で進行し、反応完了までの時間も同程度(係争特許:数時間~1日、係争ジェネリック医薬品:18~24時間)であり、添加時期の差異は明らかに実質的な変更とは言えない。
以上の理由から、裁判所は被告の製法が均等侵害を構成すると認定した。
- 被告の製品は「製法限定物(PBP)」に対する「文言侵害」を構成
係争特許の請求項23(製法によって特定される物の発明:Product-by-Process)に関し、裁判所は以下の原則に基づき、両者は同一の物で、文言侵害に該当すると判断した。
- 解釈原則:『2016年特許侵害判断要点(105 年專利侵權判斷要點)』に基づき、PBP請求項は原則として記載された製法により製造された物に限定して解釈される。
しかし、例外として、特許出願時に製法以外の技術的特徴で特定することが困難で、製法で定義する必要があり、当該請求項において製造方法が記載されている目的が当該PBPを特定するために過ぎない場合は、請求項の範囲が請求項に記載された製造方法によって得られた物のみに限定されず、当該製造方法によって付与される特性を有し、同一の構造または特性を備えるすべての物を包含すると解される。
- 本件特許への適用: 医薬組成物の「低CDP・高安定性」という特性は、化学構造式だけで特定することが極めて困難であり、製法で定義する必要性(必要性要件)がある。
被告の製品は、製法ステップこそ異なるものの、実測の結果、同一の低塩化物含有量(<0.03%)と高安定性を備えており、係争特許物の特性と完全に一致するため、文言侵害に該当すると判断された。
五、 結論と実務上の示唆
本判決は、製法特許に関して重要な法的基盤を確立したといえる。
- 化学や医薬の製法において、「ステップ順序の変更」が核心的な化学反応の実質に影響を及ぼさない場合、裁判所は均等論を適用して特許権の実質的な保護を確保する。
- 製品特性の定義が困難な場合、PBP請求項は、「同一特性を有する物」をカバーする広い範囲が付与され得る。