最近、台湾の最高裁判所は、秘密保持契約違反に関する民事判決(113年度台上字第721号)を言い渡した。この事件において、原告のA社は、2008年から2013年にかけて、微小電気機械システム(MEMS)技術の研究開発に多額の資金を投入し、従業員のB氏とC氏に研究開発を担当させたと主張した。その後、離職の際、B氏とC氏はA社のMEMS技術の研究開発に関するファイルを削除し、A社の技術成果を無に帰せしめた。A社は、この行為が著作権の重大な侵害、秘密保持契約違反、そして雇用契約または委任契約終了後の義務違反に当たるとして、B氏とC氏に対し訴訟を起こして多額の損害賠償を求めた。
本件における秘密保持契約違反に関する争点につき、B氏とC氏はA社と秘密保持契約を締結しており、同契約第6条では、従業員は退職前に電子ファイルを含む保有・管理するすべての物品をA社に返却しなければならないと規定されていた。また、第8条では、従業員が契約に違反した場合、A社が被った損害を賠償しなければならないと規定されている。この際、B氏とC氏が研究開発するためのファイルを返却せず、さらには削除したことが、秘密保持契約違反に該当し、損害賠償責任を負うか否かは争点となった。
この点について、本件を審理した台湾高等裁判所は、目的論的な観点から契約を解釈した。同裁判所による二審判決(111年度重労上訴字第63号)によると、秘密保持契約の中核となる目的は「秘密の漏洩防止」である。B氏及びC氏によるファイルの削除は、文言上は第6条の返還義務に抵触するように見えるが、ファイルが削除された以上、客観的には漏洩のおそれがなくなり、漏洩防止のために物品の返還を義務付けるというその条項の趣旨には反しない。したがって、A社は秘密情報の漏洩による損害を被っておらず、秘密保持契約に基づく損害賠償請求はできないとした。
これに対し、A社は最高裁判所に上告し、最高裁判所は原審(台湾高等裁判所)の見解を認めなかった。最高裁判所は、契約の解釈において締結時の当事者の真意を探求すべきであり、契約の文言に拘泥すべきではないとしつつも、その文言が当事者の真意を明確に示している場合、その文言を無視して解釈することはできないと指摘した。本件において、秘密保持契約第6条は、従業員がファイル等を返還すべき旨を明確に規定していた。B氏及びC氏によるファイル削除が漏洩の恐れを解消し、損害賠償責任を負うべきではないとする原審の判断は、前述の契約解釈の原則に反する。これが、最高裁判所が原判決を破棄して原審に差し戻した理由の一つとなった。
さらに、原審は、ファイルを削除した行為によってA社の技術成果を喪失させたことにつき、B氏及びC氏が損害賠償責任を負うべきであると判断したものの、A社が提示した損害賠償額の算定基準を採用しなかった。具体的に、A社は、他社からのMEMS技術の実施許諾の取得費用に加え、MEMS技術の開発に要した人件費及び開発費用も損害賠償額に含めるべきであると主張したが、原審は、他社からの技術の実施許諾の取得費用のみを損害賠償額に含めることを認めるにとどまった。これに対し、最高裁判所は、人件費及び開発費用を除外した原審の損害賠償額の算定方法も不当であり、更なる検討が必要であると判断した。さらに、最高裁判所は、損害賠償額を判断するための指針しとして、「損害賠償の目的は、被った損害を補填することであり、回復されるべきは本来の状態ではなく、あるべき状態である」と指摘した。
原判決には上記の問題点があったため、最高裁判所は本件を台湾高等裁判所に差し戻し、再び審理するように命じた。台湾高等裁判所が最高裁判所の指摘した問題にどのように対応するか、今後の動向が注目される。
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