2026年5月、知的財産及び商事裁判所(以下、知財商裁という)は「ZEGNA」商標に関する異議申立事件に対して、114年度行商訴字第30号審決取消請求事件にて、「スイスのCONSITEX S.A.社の訴えを棄却し、知的財産局による異議申立不成立の処分を維持する」旨の判決を下した。この事件は、国際的に有名な高級アパレルブランドである「ZEGNA」と工業機械商品との間での商標衝突を巡る争いであり、台湾商標法に基づく著名商標において区分を跨ぐ保護範囲について、重要な参考価値を持つものである。
本事件において、香港の華和控股有限公司(以下、華和社という)は「ZEGNA」商標の登録を出願し、指定商品として第7類(発電機、蒸気ローラー、農業機械、エレベーター及びリフト等を含む機械設備)を指定した。これに対し、原告のCONSITEX S.A.社は、同社が長期的に展開してきた「ZEGNA」及び「ERMENEGILDO ZEGNA」等のシリーズ商標が、世界市場及び台湾市場において高い知名度を確立していることを主張し、係争商標の登録は台湾商標法第30条1項(不登録事由)の10号、11号(著名商標の保護条項)及び12号の規定に違反するため、取り消されるべきであると主張した。
知財商裁の見解--両当事者の商品間に、区分を跨ぐ保護を支持し得る市場関連性は存在するか
まず、商標の類似度について、知財商裁は原告の主張を認め、係争商標「ZEGNA」は、原告が所有する「ZEGNA」を主要な識別箇所とする複数の商標と高い類似性があり、特に、単なる「ZEGNA」の文字のみで構成される商標は、ほぼ同一であると認定した。そして、たとえ一部の引用商標に「ERMENEGILDO」やその他の文字、または要素が結合されていても、全体的に観察すれば、やはり両当事者の商標は中程度から高度の類似性を有しているとした。
次に、知財商裁は原告商標の市場における知名度についても肯定した。判決では、係争商標の出願日である2022年7月14日以前に、「ERMENEGILDO ZEGNA」、「ZEGNA」、「Z ZEGNA」等の商標が長期的な販売、百貨店への出店、メディア報道、及びSNSでの掲載を通じて、衣類商品分野において関連業者及び消費者に広く認知され、商標法が保護する「著名商標」の程度に達していると認定した。
しかし、当該事件の最終的な争点の核心は、両当事者の商品間に区分を跨ぐ保護を支持し得る市場関連性が存在するか否かにあった。
知財商裁は原告の商標が主に衣類、靴、皮革製品、香水、眼鏡等のファッション・ラグジュアリー商品に使用されているのに対し、係争商標は発電機、農業機械、工程設備等の工業用商品に指定使用されていることを指し示し、両者は商品の性質、用途、製造者、販売通路、及び消費者層等の点において顕著な違いがあり、類似商品と認定することは難しいと判断した。
これに対し原告は、自社ブランドがアウトドア用品やヘルメット等の分野へ段階的に拡大しており、多角化経営を行っている実態があることをさらに主張した。しかし、裁判所は、当該商品はいずれも他ブランドとの共同開発による個別製品に留まり、原告が実際に機械設備市場に参入したことを示す証拠もないため、「ZEGNA」ブランドが第7類の商品領域まで拡大したと認定するには不十分であると判断した。
以上のことから、裁判所は消費者が機械設備に「ZEGNA」が標示されているのを見たとしても、アパレルブランドが出所であると連想することはなく、混同や誤認を生じる可能性は低いと認定した。加えて、原告商標の著名性は極めて高い程度にまで達しているとは言い難く、前述の機械設備製品は原告の中核事業から著しく乖離しているため、商標の希釈化(Dilution)や、著名商標の識別力及び信用を損なっている結果にも至らないと結論付けた。
判決コメント
注目すべきは、本件は台湾における著名商標の保護を減縮させるものではなく、むしろ、ブランドの権益と市場競争の調和を図るという台湾商標法が採用するバランスモードを改めて確認したことである。
近頃、台湾において国際的な知名度を誇るブランドが関与する事例も多く、知財商裁及び知的財産局が、商品区分が完全に同一または類似でない場合であっても、著名商標の保護及び希釈化防止理論に基づいて、より広い保護範囲を認めた例もみられる。こうした事例は通常、ブランドの知名度が極めて高く、識別力が非常に強く、且つ消費者が分野を跨いで連想しやすい案件(例:ラグジュアリーブランド、テクノロジーブランド、グローバル消費ブランド等)において現れている傾向がある。
このため、国際的なブランドが、区分を跨ぐ保護を主張するためには、やはり消費者の連想、多角化経営、またはブランド拡張の事実を証明できる具体的な証拠を提出することが必要である。一方、市場の参入者にとって著名商標の保護は強力であるものの、その範囲が無制限であるわけではなく、あくまで個別の案件の事実と市場における認知に基づいて決定されるものであるということが、本事件によって改めて明確にされたと言える。