台湾では、たとえ輸入された貨物が個人により輸入申告がなされ、且つ内容物の個数がそれほど多くない(又は重量がそれほど大きくない)小型貨物であっても、内容物に知的財産権を侵害するものが含まれていないか、税関の開封検査を受ける可能性がある。この現状について、最近、台湾では知的財産権(とりわけ商標権)の保護にかなり有益な最高行政裁判所の判決が下されている。この行政事件の一方当事者・クレーンゲーム店舗を経営するS氏は、腕時計をクレーンゲームの景品にしようと考え、アリババ(中国の大手ECサイト)を通じて中国における売り手に数箱の腕時計を注文した。S氏が注文した腕時計が国際宅配便で台湾に届き、税関が検査を行ったところ、700本の腕時計に日本の業者が所有する「CASIO G-SHOCK」商標が付されていたことが判明した。そして、商標権者が派遣した代理人が鑑定したところ、それらの腕時計がいずれも模倣品であることが分かった。
その後、S氏が模倣品を輸入した行為につき、検察は台湾商標法第97条後段に基づき、販売を意図して商標を模倣する商品を輸入した疑いで公訴を提起した。S氏は刑事訴訟において、中国における売り手が発行した、「ロゴなし」という文字が記載されたインボイスを証拠として、「腕時計にロゴが付されないように」と注文時に売り手に伝えたと弁解した。刑事訴訟の一審裁判所(地方裁判所)と二審裁判所(知的財産及び商事裁判所(以下、「知財商裁」)の判断では、S氏が輸入元を慎重に選別していなかった結果、他人の商標権が侵害されてしまい、もとよりS氏に管理上の落ち度はあったが、商標権を侵害する「直接故意」があったとは認められないとされた。結局、一審裁判所も二審裁判所も、「直接故意」を台湾商標法第97条の犯罪の成立要件とし、S氏に無罪判決を下した。
S氏は刑事訴訟において無罪判決を得たが、その一方で法的責任を全く負わないわけではなかった。例えば、模倣品の腕時計が地方裁判所の没収宣告を受けたほか、税関は「申告された輸出入の貨物に、並行輸入された真正品に属しない、専利権、商標権又は著作権を侵害した物がある場合、貨物の価格の三倍に相当する過料に処し、並びにその貨物を没収する」との「税関密輸出入取締条例」(中国語名:海関緝私条例)第39条第1項の規定により、商標権を侵害したものを輸入した行為につき、S氏に35万台湾ドルの過料(行政罰)を科した。
この過料処分につき、行政上の救済手段を尽くした後、S氏は、税関にその処分を取り消させるよう、知財商裁に対し起訴した。知財商裁の認定では、S氏が「腕時計を注文した際、腕時計にロゴが付されないようにと売り手に伝えた」ことを証明したほか、売り手より貨物が発送された時点から腕時計が差し押さえられた時点まで、S氏は腕時計に商標が付されたかどうかを知る術がなかったとされた。そこで、知財商裁は「行政法上の義務に違反した行為が故意又は過失によるものでない場合、罰しない」との行政罰法第7条の規定を引用しつつ、S氏の置かれた状況においてS氏がどのような措置をとれば過失責任を免れ得るかを税関が説明していないとし、S氏の行為が故意又は過失によるものと証明していないため、過料処分が取り消されるべきであると判断した。
しかし、税関が知財商裁の判決を不服として最高行政裁判所に上告したところ、最高行政裁判所は、S氏の主張に下記のような疑わしい点があり、採用しがたいと指摘した。
- S氏は、中国における売り手が発行したインボイスに記載された「ロゴなし」との文字を以て、腕時計にロゴが付されないように売り手に要請したと主張したが、そのインボイスは手書きの書類であり、電子インボイスを送るという国際電子商取引の慣行と異なる。
- 該インボイスに中国における売り手の電話、連絡窓口の住所等の情報が欠如しており、その「ロゴなし」との文字が確かに売り手が記載したものか、疑う余地がないわけではない。
- 本件においてそのインボイスと相互に紐付ける証拠がない。腕時計の数量は700本に上るにもかかわらず、後日商品に問題が生じた際に中国における売り手に対して権利を主張するための取引情報を全く保存していないことはかなり疑わしい。
さらに、最高行政裁判所は下記のように指摘した。S氏は、輸入を申告する前に「輸入する商品が他人の商標権を侵害するか」に注意する義務を履行すべきであった。
具体的に言えば、S氏は腕時計にロゴが付されないようにと中国における売り手に要請したが、送られてくる腕時計に確かにロゴがないかを売り手に確認しておらず、腕時計の外観写真の送付も要求していない。したがって、S氏は、輸入申告をする前に注文した商品が確かに他人の商標権を侵害していないことについて売り手に確認できたわけであったが、このような確認をしていないため、注意義務を尽くしておらず、過失責任が生じる可能性がある。原審裁判所はこの部分について詳しく調査していないとして、最高行政裁判所は原判決を廃棄し、事件を原審(知財商裁)に差し戻した。
上述のとおり、原判決と比べると、最高行政裁判所の判決は商標権者を一層保護できるものであると思われる。つまるところ、原判決が維持されれば、今後、「商品にロゴ・商標がないようにと予め外国における売り手に伝えたが、商品が税関に届いてはじめて他人の商標が付された模倣品であることに気付いた」というような弁解をする模倣品輸入業者が多数出てくる可能性がある。そして、もし裁判所がこのような弁解をあまねく受け入れれば、台湾の業者が外国における模倣品の製造者と共謀して不実なビジネス文書を作成し、台湾の業者が注文時に既に商品に商標やロゴが付されないようにと要求したと事実を偽って商標権侵害の商品を輸入する責任を免れようとするような事態が多発する恐れがある。最高行政裁判所の今回の判決は、商標権侵害者がこのような弁解をする効果を著しく低下させると思われる。現在、この事件の裁判は知財商裁に差し戻されており、今後当裁判所がどのような判断を下すかは留意に値する。