台湾の専利無効審判の手続きにおいて、請求人が外国語の引用文献を提出して専利が無効であると主張することがよく見られる。そして、専利法施行細則第3条第2項、及び行政訴訟法第121条第1項第2号は、無効審判と行政訴訟において、必要があると思われる場合、知的財産局と知的財産及び商事裁判所は、外国語の引用文献の中国語訳文を提出するよう無効審判の請求人に求めることができると規定している。
即ち、上記の規定によると、知的財産局と知的財産及び商事裁判所(以下、「知財商裁」)は個別の事件ごとに、専利無効審判の請求人に中国語訳の提出を求めるかどうかを決めることができる。
以前の事件から見ると、無効審判、又は行政訴訟の結果が専利権者に不利な場合(専利が無効にされるべきであると認定された場合)、専利権者が、その後の救済手続きにおいて、知的財産局又は知財商裁が外国語文献の内容の解釈を誤っていたり、無効審判の請求人に引用文献の中国語訳文の提出を求めていなかったりしたと主張することがよくあった。これに関し、最高行政裁判所は、その104年判字第78号判決や、104年判字第214号判決を通して、知的財産局又は知財商裁が無効審判の請求人に中国語訳文の提出を求めるべきであると明確に指摘した。その後、知的財産局も無効審判手続きの審査基準を改正し、言語の隔たりがもたらす文義に対する誤解を避けるために、無効審判の請求人は原則的に引用文献の中国語全訳又は部分訳を提出しなければならない他、訳文を提出しない場合、又は訳文の内容に疑問がある場合、知的財産局が資料の補充を請求人に求めたり、職権調査を行ったりすることができるようにしている。
外国語の引用文献の訳文に対する知的財産局の職権調査の方式について、最近のある無効審判の事件において、知的財産局が請求人に公文書を送り、「米国特許の全訳又は部分訳を提出するように。提出しなければ、知的財産局は当公文書に示されているGoogle翻訳による機械翻訳の訳文により審査する予定である」と通知した。そして、請求人が期限までに提出しなかったため、知的財産局は機械翻訳による訳文で審査し、無効審決を下した。その後、専利権者は訴願を提起したが棄却されたため、知財商裁に行政訴訟を提起した。専利権者は、機械翻訳の訳文に多数の誤りがあり、知的財産局が直接にそれらの誤りのある訳文を引用したことは、引用文献の読解を誤ったことに等しいと主張した。これに対し、知財商裁は、2025年4月に下した113年度行専訴字第47号判決で、手続きの遅延を避けるために、知的財産局が請求人が訳文を提出することを待たずに、それなりに意味が通じる訳文を採用して審査することができるため、知的財産局の審理過程に不当なところはなかったと指摘した。なお、当時、公文書の副本が専利権者に送られており、専利権者はもとより機械翻訳の訳文に意見を陳述することもできたので、知的財産局が特定の当事者を優遇したというわけでもなかった。そして、機械翻訳の誤りの部分について、機械翻訳による訳文は完璧ではないものの、前後の文脈を通して技術的内容を理解することはでき、専利権者が挙げた訳文の誤りを裁判所が逐一確認したが、いずれも技術的内容に対する誤解をもたらすものではないとし、やはり係争専利は無効であると判断した。
現在の知財商裁における行政訴訟の実務では、通常、受命裁判官が準備手続きにおいて、請求人が外国語の引用文献の中国語訳を提出したか否かに留意している。たとえ請求人が提出した訴状の本文に引用文献の一部の段落の中国語訳が記載されているとしても、引用文献の全訳、若しくは部分訳が記載されている別添資料の提出を要請する裁判官もいる。とりわけ、英語でない外国語(例えば日本語、韓国語、ドイツ語等)の引用文献の場合、裁判官がこのように要請することがより顕著に見られる。なお、民事訴訟において被告が外国語の引用文献を提出して専利の有効性に異議を唱える場合にも、このような状況が発生する可能性がある。
人工知能や大規模言語モデルの急速な発展に伴い、専利実務で機械翻訳を活用する機会が益々増えてくると思われる。このため、今後、知的財産局が無効審判でその職権により大々的に機械翻訳の結果に基づいて専利の有効性を審理することになってくるのかには留意を要する。一方、多義的な技術用語、一般的な定義とは異なる技術用語、発明の説明の論理上の枠組み、又は特定の言語の文法構造に対する読解に見られるように、現在、専利文献に対する機械翻訳の正確性に充分でないところがあることは否めない。そのため、無効審判、行政訴訟、民事訴訟などにおいて、当事者が機械翻訳を用いた外国語文献の翻訳を提出する場合、やはり慎重にその正確性を確認する必要がある。そして、自らの権益を守るために、他方当事者も適時に意見を陳述するように留意する必要がある。
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