2025年1月の判決(113年度行専訴字第31号)において、知的財産及び商事裁判所(以下、裁判所)は、特許第I535383号「ソフトキャンディの製造方法」に対し、進歩性の判断において、同じ証拠により、知的財産局(以下、知財局)と全く異なる認定を下した。
係争案件は、2012年5月11日に出願され、審査を経て特許査定となった特許第I535383号(以下、係争特許)である。査定を受けた特許には、ソフトキャンディとソフトキャンディの製造方法にかかる請求項が含まれている。無効審判請求人は、係争特許の請求項が、明細書に裏付けられておらず、サポート要件違反であること、及び3つの証拠(以下、証拠1、証拠2、証拠3とする)により新規性、進歩性を有しないことを主張した。サポート要件違反については、知財局と裁判所の双方がその主張を認めなかったため、この点については本文では詳説しないが、意見の分かれた進歩性につき、以下、裁判所と知財局の見解の異なる点につき紹介する。
まず、係争特許は、請求項1にて、「プルラン0.2~5重量%およびゼラチン0.2重量%以上且つ2重量%未満含むキャンディ生地の中に気泡を含有させるソフトキャンディであって、前記気泡を含有させることにより、当該キャンディ生地の比重を1.2以下に調節し、比重が1.2以下に調節された当該キャンディ生地を成形することによって得られることを特徴とする、ソフトキャンディ」を請求し、請求項9にて、「プルラン0.2~5重量%およびゼラチン0.2~2重量%含むソフトキャンディであって、当該キャンディは気泡を含み、比重が1.2以下であることを特徴とするソフトキャンディ」を請求している。係争特許のソフトキャンディは、上述の気泡を含み、そのキャンディ生地の比重を1.2以下に調節することで、2重量未満の少量のゼラチンであっても、軽く、ふくよかな食感且つ、しっかりした咀嚼感を得ることができる。そして、係争特許の明細書は「ゼラチンの含有量が0.2重量%より少なくなると、ソフトキャンディのふくよかな食感が失われ、2重量%を超えると、チューイ性が高過ぎて、噛み心地の良い食感ではなくなってしまう」と記載している。
無効審判請求人が提出した証拠1は、プルランを0.5~5%(重量)及びゼラチンを0.2~2%(重量)含有してなる弾力性を有する可食性チューイングキャンディを開示しており、証拠2は、プルランを0.5~3重量%、ゼラチンを2~5重量%含有し、比重が0.6~1.1であるソフトキャンディを開示している。知財局は証拠と係争特許との比較の結果、証拠1には、係争特許請求項1の「比重が1.2以下」との技術的特徴が開示されておらず、証拠2には、係争特許が特定する「ゼラチンの含有量が2重量%未満」との技術的特徴を開示していないと判断した。このため、進歩性の有無の判断は、、証拠1と証拠2を相互に組み合わせることができるかが焦点となった。そして、知財局は、証拠2の明細書段落[0009]において、「前記(ゼラチンの)含有量が2重量%未満の場合は、目的とするもちもち感が持続しない」との記載があることから、この段落[0009]における否定的な技術的評価は、当業者が証拠1と証拠2を組合せて係争特許を完成させることはないと判断するに十分であると主張し、よって、係争特許のソフトキャンディは進歩性を有すると結論づけた。
無効審判請求人はこの審決結果を不服とし、行政救済を求め、裁判所に訴訟を提起した。その結果、裁判所は進歩性にかかる判断において、知財局とは異なる見解を示した。
証拠1と証拠2の解決しようとする課題は、それぞれ、証拠1「弾力性を有する可食性チューイングキャンディを提供すること」(明細書第2ページ左上欄第10~15行)、証拠2「歯付せずまた噛み心地を硬くすることなく、もちもちした食感を有し弾力性に富んだソフトキャンディを提供すること」(明細書段落[0004])である。
係争特許及び証拠の特徴

証拠1の実施例では、キャンディの原料液をビーティング(撹拌)により気泡を含有させる方法が開示されている。係争特許の属する技術分野の通常知識において、キャンディの原料に気泡を含有させるということは、その原料に小さな気泡を充満させることを意味し、得られるキャンディの比重は、当然低下することになる。証拠2では、説明書段落[0019]にて、発泡機を用いてシロップに気泡を含ませ、含気生地を製造し、気泡の量の増減によって、含気生地の比重を調整し、最終的な製品となるソフトキャンディの比重を特定の範囲にすることを開示している。よって、裁判所は、当業者であれば、証拠1と証拠2の技術内容を組み合わせる動機を有するとし、当業者であれば、証拠1のソフトキャンディにおいて、より噛み心地が柔らかく、弾力性のある食感を求める場合、証拠2の技術を参照し、証拠2の開示する比重0.6~0.11を引例1のソフトキャンディに応用する動機を自ずと有すると判断した。
証拠2の説明書段落[0009]の記載内容については、裁判所は次のように指摘した。
証拠2の明細書段落[0009]と[0010]は、ゼラチンの含有量による作用と、その比重の調整による作用をそれぞれ記載しており、段落[0009]は、ゼラチンの含有量を2~5重量%に調整するのは「もちもち感」を得るためであるとし、段落[0010]は、ソフトキャンディの比重を0.6~1.1に調整することで、「柔らくかつ弾力性のある食感」が得られることを記載している。つまり、これら2つの食感の達成は、それぞれ独立した異なる作用によるものである。したがって、当業者が、「もちもち感」を得ようとするならば、ゼラチン含有量を2重量%以上に保つことが推奨されるかもしれないが、係争特許が所期している「軽くふくよかな食感」や「しっかりとした咀嚼感」を得ようとする場合、証拠2には、これらの食感を得るための、ゼラチンの含有量の制限にかかる記載はなく、かつ、前述したように、証拠2の明細書段落[0019]において、比重の調整が、主に発泡量(含気量)により行われるものであり、ゼラチンの含有量により制限されるものではないことが、明確に示されている。このため、当業者であれば、自ずと証拠1と証拠2の技術内容を組み合わせる動機を有し、証拠2の開示する比重範囲0.6~1.1を証拠1のソフトキャンディに応用し、容易に係争特許のソフトキャンディにかかる請求項の発明を完成することができる。
以上の内容から、先行技術における否定的な評価/記載が、必ずしも証拠(先行技術)の組み合わせを否定する根拠とはなっていないこと、そして、裁判所が、個別の案件において、その否定的な評価/記載にかかる理由を検討し、さらにその理由が係争特許の達成しようとする目的や効果に如何に関連しているかを検討したうえで、その否定的な評価/記載が当業者にとって証拠を組み合わせる動機を打ち消すものとなるかを論じていることがわかる。