台湾の専利法第53条第2項及び「専利権存続期間延長許可規則」(中国語:專利權期間延長核定辦法)の第4条の規定によると、専利権存続期間の延長許可は5年を限度とし、中央目的事業主務官庁(即ち、衛生福利部。日本の厚生労働省に相当。以下、主務官庁)から許可証を取得するために発明を実施することができなかった期間を超えてはならず、主務官庁からの許可証を取得するために国内外で行った臨床試験期間、及び、国内の医薬品の登録申請に要する審査期間が含まれる。
国外の臨床試験の「終了日」の採用については、知的財産局(以下、知財局)の現行の専利審査基準(以下、審査基準)では、国外の臨床試験報告書に記載された「試験完了日(study completion date)」を「終了日」とするとされているが、これは、裁判所の見解とは異なっている。
知的財産及び商事裁判所(以下、知的裁判所)は、2023年8月に最高行政裁判所により差し戻された2件の行政訴訟案件に対し、依然として、専利権存続期間延長制度の立法趣旨を遵守すべく、国外における臨床試験の終了日は「試験報告日」を採用すべきであるとの見解を示した(この2件の判決の概要については、弊所の2023年第4期ニュースレターを参照のこと)。
上述の2つの判決は、知財局が、最高行政裁判所に上訴しており、未だ最高行政裁判所の最終判決が下されておらず、一連の議論は引き続きエスカレートしている。例えば、ロシュ社(F. Hoffmann-La Roche AG)とギリアド社(Gilead Sciences, Inc.)は、知財局が認定した専利権の存続延長期間に不服を申し出る行政訴訟を提起している。知的裁判所は、2024年4月25日と7月26日付にて、それぞれ判決を下し(112(2023)年度行専訴字第33号、112(2023)年度行専訴字第54号)、国外の臨床試験の「終了日」につき、依然として、「試験(報告書の)報告日」を採用すべきとの見解を維持した。その概要は以下のとおりである。
一、112(2023)年度行専訴字第33号判決(2024年4月25日作成)
原告Roche社は、まず、中間試験報告書を、医薬品の登録申請における審査資料の一部として提出し、審査期間中に臨床試験を終えて、最終的な臨床試験報告書を審査に供するべく提出した。知財局は、本件につき、「データカットオフ日」(data cut-off date」を国外の臨床試験の「終了日」として認定すべきであると判断するとともに、その判断の根拠として、衛生福利部が提供した以下の認定原則を示した。
「国外の臨床試験の『終了日』としては、以下のものを採用する。①既に完了した臨床試験:ICH E3ガイドラインの臨床試験完成日(最後の被験者の試験完了日)。②進行中の臨床試験:臨床試験の中間報告の記載する『データカットオフ日』。」
一方、知的裁判所の判決における見解は以下のとおりである。
- 臨床試験の「データカットオフ日」とは、臨床試験の中間報告のための、臨床試験のデータを区切る日付にすぎない。この日以前に得られた臨床試験のデータについて、引き続き観察・記録及び解読しなければならず、『データカットオフ日』の時点において、臨床試験の成果はまだ得られていないため、臨床試験結果が示された日ではない。
- 医薬品評価センター及び衛生福利部は、申請者には、主務官庁が審査にて当該医薬品の販売を許可するに足る、医薬品の品質、安全性、有効性を裏付ける統計解析結果を、医薬品許可証を申請する際に、提供する責任があると認定している。以上から、主務官庁が、本件の医薬品許可証申請に必要な国外臨床試験期間は、決して、データカットオフ日までと限定されるものではなく、後続の、臨床試験データを統計解析に供し、その結果が臨床試験報告書に記載されるまでの期間も含まれるべきであることは、明らかである。このため、衛生福利部の医薬品許可証発行に必要な国外の臨床試験期間は、臨床試験報告書の「報告日」までである。
二、112(2023)年度112年度行専訴字第54号判決(2024年7月26日作成)
知的裁判所の判決における見解は以下のとおりである。
- 現行の専利審査基準では、国外の臨床試験の終了日は、臨床試験報告書に記載された「試験完了日」と規定されており、医薬品許可証取得に必要な臨床試験報告の作成期間が含まれていないことは明らかである。これは、専利法第53条の規定する「許可証を取得するために発明を実施することができなかった期間」の意義を過度に限定し、法律に規定されていない制限を加えるものである。これは、医薬品、農薬品及びその製造方法に係る発明の実施において、法律の規定により許可証の取得が必要であり、その許可証を取得するために、発明を実施することができなかった期間を補い、専利権者の財産権を保護するという専利法第53条の目的に抵触し、憲法第23条の「法律の留保の原則」の趣旨に反するものである。
- 現行の専利審査基準の上述の規定は、「平等」の原則にも違反している。臨床試験は、国内・国外のどちらで行われたかにかかわらず、共に新薬の有効性と安全性を確保し、国民の健康及び薬の使用における安全を守ることを共通の目的としており、専利権者には、許可証取得のために発明を実施できない期間を補償される必要がある。これらの考慮は、国外、国内により、変わるものではない。衛生福利部が医薬品許可証を審査する際に臨床試験結果が必要であり、そして臨床試験の実施期間と臨床試験報告書の作成期間は共に、臨床試験結果を衛生福利部に提供するために必要な期間であり、発明を実施することのできない期間でもあることから、臨床試験の行われた場所が国内か国外かにより、不合理な差別待遇をすべきではない。
- 「試験完了日」の時点では、臨床試験の関連データしか得られず、臨床試験結果を示すことができないため、試験完了日の後、専門家により臨床試験データの解読を行い、整理・分析・統計処理を行う必要がある。故に、文言に拘ってICH E3に定められた「試験完了日」を「終了日」とするのではなく、臨床試験結果を示すことのできる、臨床試験報告書に記載された「報告日」を、「終了日」と見なすべきである。
- ICHが定めた試験開始日、試験完了日は、臨床試験報告書の表紙に記載された項目に過ぎず、これらの日付は、医薬品許可証の発行に必要な審査項目ではない。
さらに、同訴訟には、もう一つの争点があった。即ち、原告であるギリアド社の、新薬の登録申請の申請期間内に完成できず、医薬品許可証を取得した後に完全な報告書が提出されたブリッジング試験(bridging Study)につき、その試験開始日から医薬品許可証取得日の前日までの期間を、延長期間に算入することができるか、との点である。これに対し、知的裁判所は判決にて、同試験に関する完全な報告書は、医薬品登録申請資料の一部として提出されたものではなく、同試験の完全な報告書が提出される前に、衛生福利部が、医薬品許可証を発行していることから、この試験に関する期間は、延長期間に算入すべきではないとの見解を示した。
また、この2件の行政訴訟において、両社は、共に、新薬登録審査期間の資料の「補充」期間と、新薬許可証の「受領」等にかかる期間は、出願人の責めに帰することのできる不作為の期間には属さず、控除すべきではないと主張したが、両判決はこの主張を退けた。
書類の「補充」期間につき、両判決は次の見解を示している。
- 新薬検査試験登録規則等の法規には、新薬登録申請に必要な書類が明確に規定されている。衛生福利部は、新薬登録申請におけるチェックリストや各種新薬登録審査のポイントについても公表している。医薬品評価センターの公式サイトも、新薬登録に係る関連規定、申請に必要な書類、申請提出前の注意箇条及びFAQ等を掲載している。よって、新薬登録申請者は、書類の補充が必要となる事態を最小限にとどめ、或いは回避するために、十分な注意を払うべきである。
- 主務官庁が新薬登録案件に対応する場合、提出された書類に不備があったり、許可証の取得基準を満たしていないと判断した場合、補充するよう通知することができる。これは、申請案が法に定められた要件に合致するものであることを確認し、申請者が提出した書類が、医薬品の品質、安全性、有効性を裏付けるに十分であることを確認するためである。
- したがって、書類の補充により生じる許可証取得の遅延期間は、原則として、申請者の責に帰すべき不作為の期間として、延長期間から控除されるべきである。
許可証受領期間(許可証受領通知送達の翌日から起算して実際に受領した日の前日までの期間)についても、両判決は、延長期間から控除すべきであると判断しており、その理由は以下のとおりである。
- 新薬許可証登録の審査過程から、原告は許可証受領通知より先に、係争医薬品の許可証の承認を知っている。
- 新薬許可証受領手続きは、新薬検査試験登録審査基準第27条に規定されている。医薬品登録の申請者は、事前に規定に沿って関連資料を準備し、説明書、ラベル、外箱等関連資料を準備することが可能である。これは、申請者が負うべき協力義務であり、原告が資料の準備に時間を要したことによる、許可証受領の遅延は、原告の責めに帰すべきものである。
専利期間延長のプロセスにおける国外の臨床試験期間の終了日は、報告書の「報告日」とすべきなのか、それとも、報告書に記載された「試験完了日」とすべきなのか。上述の2つの判決が下された今、「報告日」とすべきとの見解を示した知的裁判所の立場の影響力は更に強固なものとなったと言える。しかし、同時に、知財局は一貫して、現行の審査基準に基づき「試験完了日」とすべきであるとの立場を維持しているようであり、不服申し立てがなされる可能性も否めない。国外の臨床試験の「終了日」の認定論争は、未だ解決されていないと言え、引き続き、動向を注視していく必要がある。