台湾において、専利権者が専利侵害訴訟に用いられる証拠を保全しようとする場合、裁判所に対し証拠保全の相手方、保全すべき証拠、その証拠で証明しようとする事実、保全の理由を表明し、また専利権が侵害された可能性の存在を釈明した上で、証拠保全を申し立てることができる。このような申立てに関し、台湾の知的財産及び商事裁判所は、原則的に一方当事者のみによる手続きを行い、専利権が侵害された可能性の有無、証拠保全の要件の適否、証拠保全の必要性の有無について審理する。一般的には、証拠保全手続きにおいて、相手方が申立人の専利の有効性を争うことはない。しかし、証拠保全手続きでは、知的財産及び商事裁判所が専利の有効性について全く判断しないわけでもない。実際、知的財産及び商事裁判所は2024年4月に下された民声字第3号決定で、専利に新規性がないことを証拠保全の申立てを棄却した理由の一つとした。
本件の証拠保全手続きにかかわる申立人の専利発明(特許)はウエハケースである。被疑侵害品に関する証拠を保全するには、相手方の製品が申立人の専利請求の範囲内に入ることを釈明する必要があるため、申立人は、既に早期公開された相手方の一件の台湾専利出願を根拠として相手方の製品にその相手方のその台湾専利出願の発明が用いられていることを主張し、申立人の専利と相手方の専利出願を比較することで侵害対比を行った。この申立てに対し、先ず知的財産及び商事裁判所は、専利侵害の存否を判断する際には、被疑侵害品を申立人の専利との比較対象にするべきであり、双方の専利のみを比較するべきではないとして、申立人が専利が侵害された可能性の存在について釈明していないと指摘した。さらに、裁判所は一歩踏み込んで、申立人の専利はその優先日が2021年10月27日であるのに対して、相手方の専利出願はその優先日が2021年8月17日と申立人の専利のそれより先であるため、却って申立人の専利に対していわゆる拡大先願となり得ると指摘した。また、裁判所は申立人が提出した侵害対比の内容に基づき、相手方の専利出願が申立人の専利請求項の全ての技術的特徴を開示しているため、却って申立人の専利が新規性の擬制喪失に至る証明とみなすことができると認定し、よって本件に保全の必要性がないとして申立てを棄却した。
一方、過去の実例から見ると、証拠保全の申立人が相手方の専利を引用することで自らの専利が侵害されたことを釈明することに対し、裁判所は専ら否定的な決定を下しているわけではない。申立てが認められた事件のうち、申立人が被疑侵害品のカタログ、ウェブページ、写真などの証拠を以て被疑侵害品と相手方の専利の関連性を説明しながら、それらの証拠が申立人の専利と相手方の専利の構成要素の一部を開示していると同時に、相手方の専利が申立人の専利の他の構成要素を開示していることを示して自らの専利が被疑侵害品により侵害された可能性を論じた例はよく見られる。一方、もし申立人が相手方の専利だけを引き合いにして侵害対比を行い、被疑侵害品に関する説明が欠如する場合、裁判所は、専利権が侵害された可能性に関する釈明が充分ではないと判断する傾向にある。実際、相手方の専利が申立人の専利の構成要素を開示していないことを理由として申立人の専利権が侵害された可能性の存在を釈明していないとした前例も少なくない。
なお、証拠保全の申立ては原則的に一方当事者のみによる手続きであり、申立人の専利の有効性が争われないのが常であるが、留意すべきなのは、知的財産及び商事裁判所が申立人の専利の有効性に対し形式審査を行うこともあるということである。もし形式上、申立人の専利の有効性に瑕疵がある場合、裁判所は、申立人が自らの専利を以て相手方が専利を侵害したことを主張できないとして、証拠保全の必要性がないと判断する傾向にある。例えば、申立人の専利が知的財産局の無効審判手続きで無効審決を受けたこと、又は他の民事訴訟で専利が無効と認定されたことにより証拠保全の申立てを棄却した知的財産及び商事裁判所の決定がある。また、申立人がその新型専利(実用新案)について技術評価書を取得していないため、その新型専利に効力があることを釈明していないとして証拠保全の申立てを棄却した知的財産及び商事裁判所の決定の前例もある。なお、申立人の専利有効性の存否に対する形式的な審査は裁判所の職権により調査される事項であるため、相手方が自ら裁判所に要請する必要はない。
上記で述べた知的財産及び商事裁判所の証拠保全に関する判断からの教訓として、申立人は、裁判所が自らの専利の有効性について形式的な審査を行う現実を見据える必要がある。そこで、被疑侵害品が相手方自らの専利発明を実施したものであることを主張し、且つ相手方の専利を侵害対比の対象とする場合、関連する専利の出願日、公開日、公告日などの日付に留意する必要がある。さもなければ、本件のように証拠保全の申立てが棄却されただけではなく、優先日などの日付の前後関係に対する裁判所の認定により専利が無効と判断される羽目になることもありえる。
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