台湾において、発明特許出願の審査は、初審審査(以下、初審)と再審審査(以下、再審)の二つの段階に分かれている。
発明特許出願は、出願人が実体審査を請求することにより初審段階に入り、台湾知的財産局(以下、TIPO)が審査し、拒絶理由が見出された場合、出願人に応答・補正の機会が与えられるように、少なくとも一度、初審意見通知を発行する。TIPOは、初審段階において、同出願に、拒絶すべき理由がないと判断した場合、初審特許査定書を発行し、出願人による応答・補正が拒絶理由を克服していないと判断した場合は、初審拒絶査定書を発行し、これをもって、初審段階は終了となる。
出願人が初審における拒絶査定に不服である場合、初審拒絶査定を受領した日の翌日から2月以内に再審を請求するとともに、意見書(必要に応じて補正書)を提出し、再審に係る政府料金を納付すると、発明特許出願は再審段階に入り、初審段階とは異なる審査官が審査を担当することとなる。再審の流れは初審と同様であり、再審審査官は、出願に拒絶理由を見出した場合、出願人に補正・応答の機会が与えられるように、少なくとも一度、再審審査意見通知書を発行する。応答・補正後、再審が続行され、再審特許査定、再審拒絶査定が発行されることで、再審段階は終了となる。出願人が再審における拒絶査定に不服である場合、行政救済のみが可能となり、即ち、訴願と行政訴訟を提起することしかできなくなる。
2023年TIPOの年報によると、現在、TIPOの発明特許出願にかかる初審段階と再審段階の審査期間は、初審段階での、最初の初審意見通知書発行までの期間は平均8.9ヵ月、審査終了までの期間は平均約14.4ヵ月であり、再審段階での、最初の再審審査意見通知書発行までの期間は平均10.1ヵ月、審査終了までの期間は平均約13.1ヵ月となっているが、出願人が出願案件の技術的性質、または時間の経過に伴う特許戦略の変更に応じて、審査の加速または遅延を希望することもあるため、TIPOは、出願人側の希望に対応すべく、発明特許出願において、早期審査・遅延審査の制度を導入している(文末の早期審査・遅延審査の請求可能時期等を含む発明特許出願の審査にかかるフローチャートを参照のこと)。
1. 早期審査制度
台湾における発明特許出願の早期審査は、以下の三種類に分かれている。
(1) 特許審査ハイウエイ(PPH:Patent Prosecution Highway)
現在、出願人の多くは、グローバル化に伴う知的財産戦略を策定し、自国をはじめとした複数の国において特許を出願している。PPHは、各特許庁間の取り決めに基づき、第1庁(Office of First Filing。略称OFF)で特許可能と判断された出願について、出願人の申請により、第2庁(Office of Second Filing。略称OSF)において簡易な手続で早期審査が受けられるようにする枠組みであり、出願人の海外での早期権利化を容易にすると共に、各特許庁にとっては第1庁の先行技術調査と審査結果を有効に用い、審査の負担の軽減と質の向上を図ることを目的としている。PPH協定を締結している国の特許庁で特許可能と明示されたオフィスアクション(特許査定可能と特定された請求項を記載)等が発行された場合、それを用いてこの枠組に参加している別の庁に早期審査を請求することができる。
台湾では、通常型PPH、増強型PPH(PPH MOTTAINAI)の試行プログラムが実施されている。台湾と米国の間では、通常型PPHのみ実施されているが、日本、スペイン、韓国、ポーランド、カナタ等の国との間では、通常型、増強型の両方が実施されている。通常型PPHは、出願人が最先に特許出願をした庁(第1庁)の審査結果に基づいてのみ可能とされているが、増強型PPHは、第1庁による調査と審査結果のみが利用可能という制限を緩和したものであり、増強型PPHのプログラムに合意する協定を締結した国であれば、最先の出願がどの庁により行われたかにかかわらず、PPHを利用することができる。
TIPOに対しPPHを請求する際には、2つの条件:①台湾にて特許出願する請求項が、PPH請求の根拠となる外国対応出願の特許可能と判断された1または複数の請求項と十分に対応するか、十分に対応するように補正されている、②当該台湾特許出願が実体審査段階に移行しており、審査に着手されていないこと、を満たす必要がある。PPHの請求可能時期は、初審段階で請求する場合、当該出願の実体審査移行の通知の発行後、且つ最初の審査意見通知の発行前である。
(2) 特許早期審査プログラム(AEP:Accelerated Examination Program)
PPHの他に、発明特許出願が以下の4つの事由を満たしている場合、出願人は、AEPを申請して審査を促すことができる。
事由1:対応外国出願が外国特許庁の実体審査を経て、特許査定されたもの。
事由2:対応外国出願が、米国、日本、欧州特許庁の審査意見通知書およびサーチレポートを受けているが、未だ査定されていないもの。
事由3:ビジネスの実施上、早期審査を必要とするもの。
事由4:請求する発明がグリーンテクノロジー関連であるもの。
ここで、グリーンテクノロジー関連出願とは、省エネルギー技術、新エネルギー技術、新エネルギー車等に関する技術分野に係る特許出願、または、二酸化炭素削減および省資源に係る特許出願をいう。
AEPの申請可能時期は、PPHと同様に、実体審査(再審査)移行通知の発行後で最初の審査意見通知の発行前であるが、申請事由がビジネス実施のため等を含む場合、最初の審査意見通知の発行後でも申請が可能である。但し、当該出願が、審査意見通知を発行されたことがあり、同審査意見通知への対応のために請求範囲を縮減するように補正されている場合、請求範囲が当該台湾出願の補正クレームより広い外国対応出願を持ち出し、事由1を主張してAEPを申請することはできない。
(3) 再審早期審査(AEP-Re:Accelerated Examination Program for Reexamination)
文末の図に示すように、出願人が初審における拒絶査定の処分に不服である場合、再審査を請求することにより、当該出願は、再審段階に入ることになる。一方、再審査請求の際に、出願人により提出された補正が、初審拒絶査定書に記載の拒絶理由の全てに対応し、その拒絶理由を取り除くものであるならば、これらの出願の審査はより効率的なものとなり、かつ特許査定を受ける可能性はより高くなると予想されることから、TIPOは、より迅速な審査を可能とすべく、2024年9月より、再審案件に対し新たな形での早期審査、即ち再審早期審査(以下、AEP-Re)を導入している。
具体的には、出願人が再審査請求意見書と同時に補正を提出し、その補正が、①拒絶の理由のある請求項を削除したもの、または、②初審拒絶査定書にて拒絶理由が指摘されていない従属項を独立項に書き換えたもの、である場合、出願人はAEP-Reを請求することができる。前述の補正は、項番号の変更、従属関係の調整の他、必要に応じた新たな従属項の追加も容認されている。
AEP-Reの請求可能時期は、再審査請求が完了し、再審移行の通知の発行後、且つ、TIPOが最初の再審意見通知を発行する前の期間においてのみとなる。出願人は、補正がAEP-Reの要件を満たしているとの声明を記入したAEP-Reの申請書を提出すればAEP-Reを請求することができ、手数料はかからない。TIPOが、再審査請求した出願がAEP-Reの要件を満たしていると判断した場合、審査手続きは早期化されることになり、6ヵ月以内に再審意見通知または再審特許査定書が発出される。一方、再審査請求した出願がAEP-Reの要件を満たさないと判断した場合、その旨が出願人に通知され、通常の再審手続きに移行することとなる。
2. 遅延審査制度
発明特許出願は、上述したように早期審査を請求することが可能である一方、必要に応じて審査の(着手)遅延を請求することも可能である。
遅延審査の請求可能時期はPPHと同様に、初審段階で請求する場合、当該出願の実体審査移行の通知の発行後、且つ最初の審査意見通知の発行前であり、再審段階で請求する場合、当該出願の再審移行の通知の発行後、且つ最初の再審査意見通知の発行前である。
遅延審査を請求する際に、出願人が実体審査を続行する期日を指定しなければならず、初審段階であれ、再審段階であれ、実体審査の続行期日は、当該出願の出願日から起算して3年以内でなければならない。また、第三者により実体審査が請求された場合、および、出願人がPPH・AEPを請求した場合は、当該出願につき遅延審査を請求することはできない。
遅延審査を請求した後、出願人は同請求を撤回することができるが、遅延審査請求を撤回した後、同出願につき再度、遅延審査を請求することはできない。また、遅延審査の請求後でも実体審査の続行期日を変更することができるが、変更しようとする期日は、依然として出願日から起算して3年以内でなければならない。
以上から、台湾では、多様な制度を用いて、早期権利化を図ることが可能であり、また、同様に、実体審査請求済みの出願であっても、最初の審査意見通知の発出前であれば、遅延審査を請求することも可能である。台湾での発明の権利化における特許戦略に基づき、ぜひこれらの制度の有効活用を検討されたい。
